血沸き肉躍る戦い

第8話 五年後…

 あれから魔術や剣術を学んで数年。

 シオンは八歳になっていた。


 五歳から本格的に剣術を教わり始めたが、剣術の才能は三兄弟の中で一番低い。


 その代わり魔術は一番才能が有ったので、基本的には魔術で戦い、剣はいざとなった時に使うというスタイルになっている。


 それに、常日頃自分よりも剣の才能がある兄たちと立ち合いをしてるので、防御だけならそう簡単に兄たちに負けないようになっていた。


 そんなこんなで、シオンは領地のそばにある『魔の森』へ付き添いの騎士のジェイクときている。


 そしてたった今戦闘に入るところだ。


 襲ってきたのは『ブラックウルフ』。F、E、D、C、B、A、S、ランクの中のDランクに位置する魔物だ。


 一体だけならあまり強くないが、複数で来られると連携されてなかなか手ごわい魔物だ。


「『其れは冷域。凍らせ、全てを停止させよ。—氷結領域フリーズゾーン』」


 その瞬間襲いに来ていた四匹のブラックウルフは、シオンの氷魔術の『氷結領域フリーズゾーン』によって徐々に動きが鈍くなり、やがて停止した。


 シオンは次の魔術の詠唱にかかる。


「『切り裂け―風刃シェイド×四』」


 そして風魔術の『風刃シェイド』によって四本の風の刃が放たれ、四匹とも首と胴体が離れ、完全に動かなくなった。


「さすがっすねシオン様。もうDランクの複数討伐を成功させるとは」


「そうだね。でもアル兄さんとかはこの年齢でCランクも討伐してたから、それが一応目標かな。倒したのって『オークジェネラル』なんだよね?」


「そうでしたね。あの時は結構ハラハラしたっすね。それにしても、ご兄弟全員目標高いんっすね~。普通シオン様の年でそこまでいくのは異常ですよ」


「だってレイ兄さんはたまたま遭遇しなかっただけで、模擬戦ではまだ負け越してるし、アル兄さんは俺の年齢でCランク討伐してるし。できなかったら負けた気がするから嫌なんだよね」


「シオン様が一番負けず嫌いっすね。」


「そうかもしれない。」



 ジェイクとそんなことを話して笑いあいながら、今さっき倒した魔物を解体していく。

 初めて解体したときはあまりの匂いと感触で気分が悪くなり吐きかけたが、もう三年目にもなるので慣れてしまった。


 手早く解体して水魔術で洗ったりして魔石を取り出す。


 魔石というのは魔物の心臓付近にある魔力でできた石のことだ。魔石には魔力が入っており、高ランクの魔物ほど質、量ともに良い魔石が手に入る。


 そしてそれらは、魔道具に使われたりしていた。


 今日狩った魔物が入っているマジックバックは外見とは比べ物にならないほどの内臓量を誇る。


 これには古代に作られたらしい。その証拠に今では失われてしまった空間属性と時属性が付与されている。


「今日はどうします?これくらいで帰りますか?」


 ジェイクにそう問われて魔道具の時計を確認した。


 構造は前世の時計とほぼ同じで、今短針が五に向いてる。日没までもう少しあるが、もう一戦していたら日が暮れてしまうだろう。


「そうだね、今日はこのくらいで帰ろうか。」


「了解っす。それにしても今日でどのくらいの魔物狩りました?」


「さっきのブラックウルフ四匹と、ゴブリン五匹、オーク二匹だね」


「おおー。そういえば今日は結構遭遇率が高かった気がしますね」


「確かにいつもより多かったね。まあ大丈夫でしょ」


「まあ一応報告だけしときますね」


「うん。よろしく」






 しっかりとジェイクが伝えてくれたのか、その夜夕飯を食べてるときに父さんが俺たちに言った。



「最近少し魔物の遭遇率が増えてるらしい。何事もなければいいが、森に入るときは気をつけるように」


「あ、今日街のほう行ったときにも聞いたんだよな。なんか最近魔物が増えてる気がするって」


 アルも何か耳にしたらしい。


「ほんとかアル。それなら早急に調べる必要があるかもしれんな。助かったぞ」


 父がアルに感謝を述べると、


「アル?今日は勉強の日じゃなかったかしら?」


 ふいに横から声が発せられた。


「え、そ、そうだっけ?今日じゃなかったような…」


 母のそんな言葉にアルは急に動揺し始めた。


「言い訳しても無駄よ?もうミゼラから報告が上がっているもの」


「ミ、ミゼラめ!告げ口しやがったな!」


 因みにミゼラはアル兄の専属の使用人だ。ミゼラはきっちりしているのでアルは少し苦手意識を持っている。


「当たり前でしょう?全く…。明日は一日中勉強ですからね!」


「そ、そんなぁ…。」


 勉強漬けの刑に決まってうなだれている情けないアルを横目で見ながら、シオンは自分は真面目にやっておいてよかったと安心した。



***



 夕食を終え、風呂に入り、シオンは自分の部屋にいた。


 初めて魔術を使った日からもう五年が経過した。今は、あの頃と比べ物にならないくらいに魔術が使えるし、強くもなっている。


 母から教わった魔術はこの五年で自分のものにし、苦手な属性の火と光も基本的な魔術なら使えるようになった。火属性でいったら『火球ファイアボール』までは使えるようになったし、光属性なら『光矢ライトアロー』ぐらいまでなら使えるようになった。


 逆に得意な魔術はもう母に匹敵する。さすがに年季が違うので魔力操作などの技術面ではまだまだ及ばないが、単純な魔力量や魔術の種類はあと二、三年したら追い越せそうな感覚はある。これは母も驚いていた。


 ではなぜまだ八歳にしてそこまでの領域まで至ったかというと、おそらく想像力イメージの差だとシオンは考えた。


 シオンは前世の記憶があるという普通ではないアドバンテージがある。


 前の世界には異世界漫画や小説によって、魔法や魔術に対する憧れがあり、前世で学んだ物理や化学によって現象を科学的に考えられる知識があったのも多い。


 例えば、燃焼反応の仕組みを知っているものと知らないものでは同じ魔術を使ったとしても威力に差が出る。それだけ現象に対しての理解と、それに伴った正確なイメージが必要なわけだ。


 最近は既存の魔術以外にもオリジナルの魔術も作り始めているので、、毎日が楽しくてしょうがない。


 そして最近思っていることがある。


 それは古代に失われた空間属性と時属性を復元したいという願望だ。この世界の魔術は想像力と現象を理解することが重要になっている。なのでどうにかして復元できないか考えているのだ。


 というわけでシオンの長期目標は『空間属性と時属性を復元する』に決まった。

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