第7話 二人の兄と模擬戦

 初めて魔術を使った日から一か月経過したが、シオンは今は母のセリティーぬ直々に魔術の鍛錬の指導を受けていた。


 数日は一人で勝手に魔術を使っていたのだが、一週間もしないで母にばれたからだ。


 どうやら母は魔力を感じ取れるらしい。


 それまでは誰かが魔術使ってるのかな~ぐらいにしか思わなかったらしいが、毎日繰り返し魔力を感じ取ったのでこれはおかしいと思ったらしく、見事シオンは現行犯逮捕された。


 シオンが文字を理解していてある程度の知能があると判明したので、次の日から他の勉強も強制的にさせられるという状況になった。


 といってもまだ三歳児なのでそんな長時間遣らない。


 その代わり魔術は母が教えてくれるようになり、独学で勉強していた時よりも効率が良くなったのは良いことだろう。


 自分ではただイメージして詠唱して魔術をぶっ飛ばすだけっだったが、それだけではだめだと教えてくれた。


 新たに魔力操作や魔術の重複発動など様々な理論によって、さらに魔術の熟練度が上がったのだ。


 そんなこんなで最近勉強ばかりのせいで今日は怠惰に過ごしたい気分だった。

 そんなシオンは散歩でもしようかなと思っていたら、母に声をかけられた。


「あら、シオンじゃない。どこ行くの?」


「んー、別にふらふらしてただけー」


「じゃあ私と一緒に訓練場いかない?今アレクがレイとアルに剣を教えてるのよ。」


「え、父さんが兄さんたちに?興味あるから行くよ」


「じゃあ決まりね~。」


 シオンの兄たちは一番上のレイが9歳で真ん中のアルは6歳だ。

 二人とも剣の才能はあるらしくこうして父が直接教えることが多い。

 シオンはまだ三歳なので教えてもらっていなかった。



 


 母と一緒に訓練場に行くと丁度レイとアルが模擬戦をしているところだった。


 二人とも少し短い木剣所謂ショートソードを武器としており、二人とも果敢にお互いを攻撃している。

 初めは二人の激しい剣戟に思わず見入っていたが、ふと何かがおかしいと気づく。


 それは、二人ともありえない速度で動いているからだ。

 二人とも明らかに九歳と六歳の身体能力を超えた動きをしていた。


「ねえ母さん。レイ兄さんとアル兄さんなんであんな速く動けてるの?」


「それは二人とも身体強化をしているからよ。魔力を目に込めてみなさい。多分見えると思うから」


 そう言われてシオンは目に魔力を込めて二人を見た。

 これは目に魔力を込めて、魔力の流れなどをみえるようにする『魔視』という技法で、『魔技』の一種だ。


 因みに魔技というのは、魔術以外の魔力を直接操る技術のことを言う。

 『魔視』の他には武器に魔力を纏う『魔纏』や相手に接した状態で魔力を瞬間的に外に放出して相手の体内魔力を一時的に狂わせる『魔衝波』などと多岐に渡る。


「ああ、ほんとだ。身体強化ってあんな動きもできるんだね。」


 『魔視』で二人を見たら、二人の体に何かぐるぐるしたものがあった。

 そして二人が魔術を飛ばしあう時にはそれに伴って魔力の流れも見える。


「二人ってどのくらい強いの?今まで他の人を見たことがないからあんまりよくわからないんだけど」


「そうね…二人はかなりの強さだと思うわ。他の国は分からないけど、王国内だったら同年代で五番以内には入るかしら」


「え、五番以内!そりゃ凄いね。でも、元王国騎士団団長と元王国魔術師団団長の息子だから当たり前といえば当たり前か…」


 両親共々王国でも最高峰といってもいい実力者である。


「あれ?ということは父さんと母さんが一番強かったの?」


「そういうわけじゃないのよね~」


 セリティーヌは否定して続ける。


「騎士団も第一から第五まであって、魔術師団も第一から第三まであるのよ。私たちはその内の一人ってわけね。しかもその上には『六星』といわれる三人の『剣聖』と三人の『賢者』がいたからその六人が実際はトップよ」


 またもや母の口から衝撃事実が飛び出てきた。

 母と父の同格がいるだけでなく、さらにその上もいるというのだ。

 どこまで凄い存在なのかわからなくなった。


 話は模擬戦に戻る。

 丁度今、アルが火魔術の『火矢ファイアーアロー』を五重発動しながら、身体強化をかけながらレイのほう肉薄しているところだ。


 それを見たレイは、『火矢ファイアーアロー』を躱しながら、向かってきたアルに風魔術の『風爆ウィンドボム』を正面に発動する。


 アルは魔術が来ることが分かってたので、魔技の一つである一瞬だけ魔力を活性化させて身を守る『魔力防』をタイミングよく発動した。


 しかし、レイのは発動した『風爆ウィンドボム』は想定より威力が強かったのか少し体勢がよろけてしまった。


「くっ…」


 レイはその隙を逃さずアルに近づき、剣で攻撃する。


「ハァッ!」


「ふっ…」


 そこから剣で何合か切りあったところで地面から出てきた土によってアルの足が拘束されてしまった。


「うっ…、なんだこれ!」


「引っかかったね!」


 それはあらかじめレイが仕掛けてあった土魔術の『泥拘束マッドバインド』だ。

 アルが接近する前からこうなることを予測して仕掛けておいたのだろう。

 先読みの能力はレイのほうが上手だということだ。


 そして素早くアルの首に剣を突きつける。


「これで僕の勝ちだ」


 そう言った直後、父であるアレクサンダーの声が訓練場に響いた。


「そこまで!レイの勝ち!」


「あー!また負けたー!くそー。もうちょっとだったのに!」


「いや、一応僕、アルの三つ上だからね?正直今日は危なかったし。日に日に差が縮まってる気がするよ…」


 レイの言ってることはもっともである。

 そもそもアルとレイは三歳離れているので、年上のレイにここまで接戦で来ているのは凄いことだ。

 

 しかもレイだって同年代の中だったら余裕で上位にもかかわらず、だ。


「お!セリーとシオンが来てるじゃねーか!」


 父のアレクが声をかけてくる。

 まあ父ぐらいの実力者なら初めから気付いていただろうとシオンは思った。


「ふふっ。お疲れ様あなた♪」


 そういって母が父を労いに行った。

 母と父がイチャイチャして甘い空気にあてられる前にシオンは兄達の元へ行く。


「レイ兄さんとアル兄さんお疲れー。すごかったね」


「シオンも来てたんだ。負けてかっこ悪いとこ見られないでよかったよ」


「あ!それ、負けた俺はかっこ悪いっていってんのか!今日はたまたまだぞシオン!いいか!次は勝つからな!」


 レイは貴公子な見た目をしているが意外と意地悪だったりする。

 そしてアルは負けず嫌いだ。

 それを見た俺シオンは、


「はは…。ふ、二人ともすごかったよ!」


 そういうしかないのであった。

 

「そうだろうそうだろう!シオンもやるか?」


「いやまだシオンは三歳でしょ…三歳には見えないからたまに年齢を忘れそうになるけど。」


 レイの発言にシオンは何を失礼なと憤慨する。


「どっからどう見ても三歳児でしょう!」


「「それはない。」」


 そんなシオンの言い分は二人の兄に揃って否定されてしまったのだった。

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