第5話 ポンコツメイドのリコ
教会に行って次の日。
シオンはいつもより少し早く起床した。
その理由としては早く魔術を使いたかったからだ。
前世では御伽話の中の存在がいよいよ使えるとなると、朝ゆっくり寝て時間を浪費するなんてもったいない。
とにかくシオンはは一刻も早く魔術を使いたかった。
ひとまず身なりを整えて朝食をとりいよいよ魔術を使おうと思ったその時、シオンは愕然とした。
なぜならばシオンは魔術のまの字も知らなかったからだ。
今までの極めて少ない知識から、魔術は三歳児が簡単に使えるものではないということを思い出した。
しかしシオンははそんなことで落ち込んだりしない。やり方が分からなければ勉強すればいいのだ。
幸いにも今のシオンは三歳児であり、まだ勉強をする必要はない。つまり一日のほとんどは自由に使える時間だ。その時間をシオンはは魔術の勉強に充てることにした。
魔術を学ぶと決めたのは良いが、問題はどうやって学ぶかだ。
元王国魔術師団団長こと母のセリティーヌに聞いてもいいが、シオンはまだ三歳児だ。
それに、彼は他の勉強をさせられる可能性もあるのであまり大っぴらにしたくなかった。
そうすると書物—本だ、とシオンは決める。
フォードレイン家はかなりの高位貴族なので書物部屋はある筈だ。
そう思ってシオンはふらふら探していたら目の前にいつもお世話をしてくれる使用人を見つけた。
「あ、リコ見つけた」
「何でしょうかシオン様?」
使用人のリコはシオンが生まれた時からずっと世話をしてくれるので実質シオン専属の使用人となっている。
「本がおいてある部屋ってどこにあるかわかる?」
「ああ、書斎ですか。案内しますよ~。付いてきてください」
「うん。ありがとう。」
やはり書物部屋はあるみたいだ。
これで秘かに魔術の勉強をしようとシオンは思っていたらリコが話しかけてきた。
「そういえばシオン様って文字読めるのですか?」
「うん。ある程度はね。よく昔から本読んでもらったじゃん」
「え!あれだけで覚えたのですか!これはセリティーヌ様にお伝えしないと…」
あまりよく考えずに答えたらリコに物騒なことを言われたので慌ててシオンは頼んだ。
「ちょっと待ってリコ!母さんには伝えないで!」
「ええ!そんなことできないですよぉ…」
「このまま伝われば勉強させられるのは間違いないでしょ?別に嘘をつく必要はないんだ。聞かれてもないことを言わなくてもそれは罪にならない。たぶん…」
「ちょっと不安なことを言わないでください!でもばれたらまずいですよぉ…」
まだ渋るリコに対してシオンはあることを思い出した。
「そういえばこの前まとまった休暇が欲しいって言ってなかったっけ?」
「言いましたけど…」
「じゃあ母さんに言わなかったらそのことを伝えてあげるよ。別にリコから言わなければいいだけなんだ。母さんに聞かれたらさすがに答えていいけど」
「うぅ…わかりました!約束ですよ!」
「うん。約束約束」
休暇という餌に釣られて了承したリコを見て、これで一先ず大丈夫だとシオンは安心した。
***
シオンはリコに案内されて部屋に入った。
大体二十畳ほどの広さで、壁一面に本がぎっしり詰まっている本棚がずらっと並んでいる。部屋の真ん中には本を読むための大きい机と四脚の椅子があった。
思わずその雅な光景に目を奪われてしまった。
「ふふっ。すごいでしょう!」
横で何故かリコが誇らしそうにしていた。
「いや、なんで誇った顔してるの…。」
「いいじゃないですか!珍しくシオン様の年相応な顔を見れたんですから!」
「え、俺っておかしい?」
「はい、とても。」
その言葉にシオンは驚きと納得の両方を感じた。確かに三歳児らしくない口調や思考を時々見せているのでそう思われても仕方ない。
「まあ、そんなことより魔術の本がどのあたりにあるかわかる?」
「どうでもよくないのですが…。まあいいでしょう。魔術の本はこのあたりですね。」
そう言ってリコはその場所まで歩いていく。
シオンはリコに付いて行って本棚を見る。
サッと目を通して確認して今の自分に合いそうな本を探した。
「じゃあそれと、それと、それ取って」
「(ほんとに読めるのですかー…。)」
何かリコが言った気がするがシオンは気にしないようにした。
リコに取ってもらった本は、『魔術の基本』『魔術と属性の関係性』『詠唱一覧』の三冊だ。
シオンはその三冊の本を手に持ち、自分の部屋に帰った。
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