第4話 side-国王

 この日国王であるギルベルトは朝からそわそわしていた。


 その理由は、自身の娘でもある第二王女のシルフィーネが測定の儀から帰ってくるからだ。


 普段は威厳たっぷりの王なのだが、その反面重度の親バカである。


 そして今は執務室で書類仕事を片付けている最中なのだが、あまり集中できていなかった。


 そんな中、ドアがノックされる音が聞こえる。


「誰だ」


「シュゲルです」


「入れ」


 ドアを開けて入ってきたのはこの王国の宰相だ。

 シュゲルは部屋に入って早々、明らかに落ち着きのないギルベルトをみて呆れた表情をした。


「陛下、いくら愛しのシルフィーネ様が帰ってくるのが待ち遠しいからといって仕事はしっかりしてくださいよ」


「なっ!落ち着いとるわ!まったく…、国王である私がそのようなことで仕事をおろそかにするわけがないだろう?」


「いや、それは今までの自分の行動を振り返って見てくださいよ…。陛下が親バカなのは周知の事実ですのに」


「ええい!そんなことはどうでもいい!それで何の用だ?」


「ああ、そういえばそうでしたね。第二王女シルフィーネ様がご帰城されました」


「そ、それを先に言え!こうしちゃいけない。すぐに行かなければ!」


 そう言って今にも飛び出していきそうな国王であるギルベルトをシュゲルは一瞥してぽつりと言葉をこぼした。


「陛下。今日の仕事はどのくらい終わったのでしょうか?」


 その瞬間ギルベルトは分かりやすく肩をビクリと震わせた。


「ははは…、何を言っているんだ。ほとんど終わっているに決まってる!」


「なるほどなるほど。あなたの言っているというのは、半分ほどなのですか?」


 そういってシュゲルの目線は机に積まれている書類に向かう。

 どう見ても今朝見た時の半分も残っているのだ。


「いや!落ち着けシュゲル!大丈夫だ。このくらいの量なら今日中に終わる!」


「そう言って終わらなかったことが何回ありましたかねぇ…」


「うぐっ…こ、今回だけだ今回だけ!頼む!」


「ダメです。すべて終わってからです。さあ、早く始めましょう。早くシルフィーネ様に会いたいのでしょう。」


「ち、ちくしょう!お前は悪魔だ!」


「ふふふ…私を悪魔だと思っていただいてもかまいませんよ。仕事を早く終わらしていただければね…」


 不敵に笑い、ギルベルトの抵抗もむなしくシュゲルによって仕事に連行されていった。


 因みに先ほどギルベルトがシュゲルに向かって悪魔といったがあながち間違っていない。シュゲルは先代の王の時から仕えている非常に優秀な宰相だ。その優秀さによって国内だけでなく周辺国にも『悪魔の宰相』として名が広まっているのである。




***




 同日、数時間に及ぶ仕事という名の監獄から抜け出した国王であるギルベルトはニコニコしながら娘のシルフィーネと妻である王妃のイザベラとともに久しぶりに家族団欒をしていた。


 因みに現在の王族は、国王であるギルベルトをはじめとして、王妃、第一王子、第二王子、第一王女、第二王女、となっている。


「シルフィーネ。測定の儀はどうだったかい?」


「おとうさま!みてください!こんなかんじでした!」


 そういってシルフィーネは自身の素質が書かれた紙をギルベルトに渡した。


 そこに書いてあったのは、火が八、水が三、風が四、土が四、氷が二、雷が四、光が四、闇が二、無が五。


「おお!すごいぞシルフィーネ!王家の象徴でもある火属性の素質がこんなにも…!」


「おとうさまわたしすごい?」


 コテンと可愛らしく首を傾けて聞く。


「ああ、凄いぞ。さすが私の娘だ」


「わたしすごいんだ!おとうさまおかあさまわたしがんばるね!」


「シルフィーネ…!まだ三歳なのにこんなに立派な…!」


「あなたの親バカも極まってるわねぇ…まあでもシルフィーネ。私も誇らしいわ」


 実際のところ、王家でここまでの火属性の素質が確認されたのは久しい。

 彼女の兄や姉も火属性の素質はあるが、ここまで高い素質はない。素質が八となるとシオンの氷属性の素質と同じ数字である。



 そしてシオンとシルフィーネが邂逅するのはまだ先の話であった。

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