第一章 幼少期編

全てが未知

第2話 魔術の素質

 シオンの三歳の誕生日から二か月ほど過ぎたころ、遂に彼の素質を調べる日の前日となった。


 素質とはその人の魔術における属性の適正だ。


 火水風土氷雷闇光無の九つの属性に自分はどのくらい適性があるのかというもの。


 シオンはその方法について母に聞く。


「母さん、そういえば素質のある属性ってどうやって調べるの?」


 シオンが聞いた相手は母親である、セリティーヌ・フォードレイン。腰辺りまで伸ばした艶のある銀髪を持っていてかなりの美人だ。


 因みにシオンの外見の遺伝子はほぼ母親だと思われるぐらい似ている。


 つまり彼は女顔なのだ。


 そのせいか、よく母親と彼のメイド等に女ものの服を着せられるのが不満だった。

 

「そういえば言ってなかったわね。素質を調べられる装置が教会にあるのよ。だから明日教会に行くわよ」


「へー、教会か…。その装置でどうやって調べるの?」


「九つの各属性に対応した魔石を使ったものなのよ。それには十段階の目盛が付いていて、それぞれに自分の魔力を流してその目盛によって自分の素質が分かる、といった具合ね」


「その目盛ってどこまで行ったら良いほうとかそういう基準ってあるの?」


「そうね…、属性関係なく目盛の五を超えればその属性の道で一流の魔術師にはなれるわね。一般的には三までが素質無し、四から六までが素質あり、七から九は国全体で見ても少数だわ。最大の十はいないわ。余裕を持たせて十には絶対行かないように作られてるもの。だから実質頂点は九ね」


「へー…。因みに母さんはどんな感じ?」


「ふふっ、聞かれると思ったわ。私は火が三、水が七、風が六、土が三、氷が七、雷が五、光が七、闇が三、無が三、ね」


 シオンはそれを聞いて驚愕した。


 そりゃそうだろう。

 九個の内、素質があるのが五個、そして国の中でも少数しかいないと言われている範囲でも三つあるからだ。


「か、母さんってそんなすごかったんだね。正直驚いたよ…」


「そりゃセリーはもと王国魔術師団の団長だったんだからな」


 そういって現れたのはフォードレイン家当主でシオンの父でもあるアレキサンダー・フォードレインだ。


「え!母さんが団長!?こんなのほほんとしてるのに…?」


「そうだ。今では考えられないかもしれないが、当時はすごい暴れてたんだぜ?その暴れっぷりからつけら………」


「あ・な・た?」


「い、いえ、何でもないです!」


 母の一睨みによって父は口をつぐんだ。


「それはそうとして、父さんは?」


「あー、俺はそんなすごくないぞ?火が五、水が三、風が四、土が六、氷が三、雷が五、光が二、闇が三、無が八だな。な?たいしたことないだろ?」


「まぁ…、確かに母さんと比べると…。ん?無が八?そういえば無属性って何ができるの?他の属性は名前からして予測はできるけど」


「無属性は地味だぜ?いいか?無属性っていうのは名前の通り属性がない。つまり、ただの魔力そのものを使うことしかできないんだ」


 そう言いながら父は紅茶を一口飲む。

 

「できることと言ったらまず“身体強化”だな。さっき言った素質の数字によって身体強化の強度の度合いが決まる。後は、剣に魔力をまとわして切れ味を良くしたり、斬撃を飛ばしたり…、まあ全部言ったら面白くないからな。無属性ってのはこんな感じだから、剣士とか近接で戦う奴らは向けの属性だな」


 シオンは今の話を聞いて無属性は若干他の属性に比べて不利だと思った。


「シオン?この人はたいしたことないように言っているけど一流が使えば信じられないくらい強くなるんだから」


 そんなシオンの思考を見透かすように母が否定する。


「考えられる?いくら魔法を放っても身体強化で躱されるし、当たると思っても剣で切られるし、さらには当たったと思っても無傷なこともあるのよ?そこのアレクが最たる例よ…。言っておくけど、普段はこんなんだけど王国騎士団の団長だったんだから…」


 それを聞いてシオンはまたもや驚愕した。


 でも確かに思い返せば筋肉が身体に無駄なくついてるし、歩き方とかきれいだし…、といったように色々ある気がする。


「っていうかさ…、二人ともすごかったんだね」


 そういってからシオンは恐ろしいことに気づいてしまった。親がこんなヤバイならうちの二人の兄もヤバイのではないかということを……。


「ね、ねぇ母さんと父さん…。レイ兄さんとアル兄さんはどうなの…?」


「あー、そういえば言ってなかったか」


 そう言って父は語りだした。


「レイは火が三、水が五、風が六、土が四、氷が四、雷が四、光が四、闇が三、無が五だな。それからアルは火が五、水が三、風が五、土が五、氷が二、雷が四、光が二、闇が四、無が七だ」


 その事実にシオンは口をあんぐりと開けるが父は構わず続ける。


「レイは万能型、アルは俺と同じで近接型だな。おそらくアルと同年代でアルより強い奴なんていないんじゃないか?まあ、他をあんま知らないからわからんけどな」


「や、やっぱり…。親が親なら兄も兄で化け物なんだね…」


 やはり母と父だけでなく兄二人も化け物だったようだ……、とシオンはもはや呆れた。


「何言ってんだシオン。お前も俺たちの子なんだからその化け物に仲間入りするぞ?」


「そんなこと言われても何とも言えないよ…。これで素質がなかったらどうするのさ…」


 兄がすごい=俺もすごいに違いない、という方程式は成り立たない、とシオンは考える。


(あ、やばい胃が痛くなってきた。これでほんとに素質なかったらどうしよ…)


「あら、そんなこと考えてたのね。そんなに心配する必要はないと思うわよ?」


 心配になっているシオンに母が言う。


「自分でいうのもなんだけど私たちほどの素質がある夫婦から生まれたんですもの。何かしらの素質がある筈だわ」


 隣に座っていたシオンを自分の膝に座らせながら母は頭を撫でる。


「けど、素質がなくても別にいいのよ。他の道を探せばいいだけじゃない。魔術の素質がどうであれシオンがうちの息子であることは変わりないのだから」


「そっか…うん、そういわれると安心したよ」


 


***




 それからシオンはしばらく話した後自分の部屋に戻り先ほどの会話を思い出していた。


 『魔術の素質は遺伝する』


 事実、シオンの二人の兄は両者とも素質が高い。仮に魔術の才能は完全な確率だとすると二人の兄が高い素質を持っているのは限りなくあり得ない。


 だからシオンは魔術の才能は遺伝すると考えていた。


 そう考えると、この世界では基本的に平民より貴族のほうが全体的に魔術の素質があるのは自明の理なのかもしれない。


 確かに平民出身の人の中でもすさまじい素質があり、冒険者になって成功する者、軍に入って順調に出世する者など決して全部が全部貴族だけっているわけではない。


 しかし、前世の地球のような権力階級がなくなっているわけではないので貴族の優位性を高めるために魔術の素質のある者同士で結婚をし子を成す、というのが当たり前だから貴族は恋愛結婚はほとんどなく、政略結婚が主流なのだろう。


 まあシオンの両親は恋愛結婚らしいので全部が全部ではないと思うが。


 というわけで、貴族階級の中でも上位に位置する貴族の家の次期当主は人気者のようだ。


 それが良いのか悪いのかはその人次第による。


 因みにシオンは絶対に嫌だと思ってる。


 考えてみてほしい。

 自分自身を見るのではなく、その後ろの家柄や貴族としての権力、さらには金を見られるのだ。


 ただ…、中にはそんなんでも貴族の麗しい(外面だけであるが)ご令嬢に言い寄られるのがうれしいという人もいるかもしれないが…。


 つまりフォードレイン家も辺境伯なので辺境伯次期当主の夫人の席は非常に魅力的に映るのだ。


 さらに彼の一番上の兄はシオンの六歳上であり、まだ幼いながらも将来かなりのイケメンになる片鱗をすでに見せている。


 さらには魔術の素質も抜きんでているのでかなりの優良物件なのだ。


 そんなこんなで(貴族は大変なんだなぁ…。長男じゃなくてよかった。)とこんなことを考えながら彼はレイに将来訪れるだろう受難を憐れみながら、未来のレイに向かって合掌した。

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