第2話最愛の人との出会い

 その家に入り、壁にある電気のスイッチをいれる。パチパチという音がして、家の中に電気の光が灯る。


 家の中に入り、僕は驚愕した。

 それは壁や床、いたるところにあるサイドテーブルにそれはそれは美しい、大小様々な人形たちが飾られていた。

 

 僕はそのうちの一体を手に取る。


 偶然だろうか、その金髪の愛らしい人形はまばたきしたように見えた。

 それはたまたま、まぶたの部分が動いただけかも知れない。僕にはその人形が生きているように見えた。



 祖父の残した家はそれなりに広い。

 一階部分はリビングとキッチン。

 二階には寝室と物置とクローゼット。


 そして地下室があった。

 

 どうやら地下室がアトリエになっているようだ。そこにも人形たちがひしめきあうようにおかれている。

 心なしか視線を感じる。

 見られている気がする。

 しかし、不思議とその視線は不快ではなかった。


 アトリエの奥に安楽椅子に座っている人がいた。

 黒いワンピースを着た女性のようだ。

 漆黒の髪が艶やかで深緑の瞳が宝石を連想させた。

 その女性はたちあがり、僕の右手をとり、口づけする。


「あなた様が私どもの新しいご主人さまですね。私はこの娘たちの長姉で麻季絵まきえと申します。どうぞよしなに……」

 と言った。


 それが最愛にして生涯の伴侶となる麻季絵との出会いだった。



 結局、祖父のアトリエ兼自宅とコレクションは僕が譲り受けることになった。

 両親たちは法定分の遺産を受けとるとそれ以来、この家を訪れることはなかった。

 祖父の遺産は贅沢をしなければ、一生暮らしてはいけるであろう額があったので僕はアルバイトを辞めてその家で暮らすことにした。

 そのことに対して、誰も反対はしなかった。

 書類関係の難しいことはすべて田代さんが行ってくれた。

 田代さんは祖父の唯一の友人でとても誠実だった。

食料品や日用品を持ってきてくれたり、掃除や作り置きの料理を作ってくれる家政婦さんも紹介してくれた。


 僕はその家で世にも美しい麻季絵と娘たちと暮らすことになった。

 そこで僕は生まれて初めて充足感を覚えた。


 麻季絵の進めで僕は祖父が残したスケッチやメモ、ノートをまとめた。そこには人形の作り方や材料の選びかたがこと細かく書かれていた。

 僕はその残された資料をもとに一体の人形を試行錯誤の末、つくりあげた。

 六十センチほどの人形にピンクのフリル付きの衣装を着せる。

 祖父が残した娘たちには遠く及ばないが、かなりのかわいらしさだ。

 その娘を抱き上げるとゆっくりとまばたきし、僕を見ると彼女は微笑んだ。


「おめでとうございます。私どもの初の子供ですね。とてもとても可愛らしいですわ」

 そう言い、麻季絵は僕と娘を抱きしめた。娘と僕に交互に口づけする。

 麻季絵の肌と口びるは冷たく心地よかった。


 それから僕は麻季絵と共に人形造りに没頭した。

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