人でなしとの恋
白鷺雨月
第1話祖父の遺産
物心つくころから他人との関わりが苦手だった。それはもはや苦痛でしかなかった。
他者との接触は僕の精神に極度のストレスを与える。それは家族とて例外ではなかった。
僕があまりにも人見知りするので無理矢理、野球チームに入れられたことがあるが、監督の怒声を聞いた瞬間、卒倒してしまい、一日で辞めてしまった。
それ以来、学校は休みがちになり、自宅の部屋でプラモデルやイラストを描いてすごすようになった。
しかし、僕自身もこれではいけないと思い、高校だけはどうにか卒業した。大学に行くほど勉強かできたわけでなく、さりとて就職できるほど他人とコミュニケーションをとれるわけではなかった。
そんな僕はとある食品会社の倉庫管理という比較的他人との接触が少ないアルバイトをするという中途半端なフリーターになった。
いっそのこと引きこもりのニートになれば両親もあきらめがついたと思うが、半端なやる気だけみせてしまい、戸惑わせる結果になった。
無論、友人もましてや恋人などできるわけはないので将来は真っ暗である。
唯一の癒しはSNSに自作のプラモデルやイラストを投稿して、いいねを貰うことだった。
僕の作品に評価をもらうときだけ、ほんのすこしではあるが自己肯定感をもつことができた。子供のころから手先だけは器用だったのだ。
そんな極度のコミュニケーション障害を持つ僕に青天の霹靂ともいえる転機が訪れた。
それは祖父の死であった。
自分に祖父がいたのも驚きだったが両親が僕に祖父の存在を言わなかったのも奇妙なことだった。
どうやら祖父はかなりの遺産があったようで弁護士の田代さんという方が家にきて、祖父の遺産についていろいろ説明してくれた。
祖父の遺産は預金と有価証券、それに県境にあるという自宅とそこにあるコレクションだということだった。
祖父の遺言にはその家とコレクションを管理する者にすべての遺産を譲るというものだった。
僕は両親に連れられ、その祖父が一人で住んでいたという家に向かった。
妹も同行した。
僕の妹は社会不適格合者の僕と違い、気立てがよく異常な人見知りの僕にも気を使う良くできた人間だった。しかも美人だ。
両親も僕よりは確実に妹の方を気に入っていて、よく三人で外出していた。
僕自身も家では一人でいるほうがよかったのでそれなりにはうまくいっていたと思う。
県境の山道を車は走る。
動物の飛び出しに注意の看板が目につく。
県道からあまり整備されていない土道を抜けるとそこにひっそりとたつ一軒家が見えた。
車を降り、その家に向かおうとするが両親と妹は立ち止まったまま動こうとしない。
三人の顔を見ると顔色が悪い。青ざめている。
「すまないがお前が中の様子を見てくれないか」
父が言い、家の鍵をわたす。その手はかすかに震えていた。
「車で待ってるわ」
母はそう言い、そそくさと車の助手席にもどる。
「ごめん、ちょっと無理」
妹も後部座席にもどり、スマートフォンで動画を見始めた。
それは目の前の家から視線をはずしたいための動作に思われた。
僕はそんな三人と違い、いたって平気だったので鍵を受け取り、祖父の家に入った。
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