第3話娘たちの旅立ち

 麻季絵との生活は僕にこれまで感じたことのない充足感を与えてくれる。

 彼女と娘たちを造ることはこのうえない幸福であった。

 

 また麻季絵は僕に足らないところを補充してくれる存在であった。


 ある時、家政婦の山田さんが掃除の時に僕の愛らしい娘を棚からおとしかけた。

 どうにか僕が床に落ちる前に手でうけることができたが、僕の心に生まれて初めての怒りの炎がついた。

 この娘に毛ほどの傷がついたらどうしてくれるのかと。

 そんな時、麻季絵は冷たい手で僕の体を抱きしめ、怒りの炎を沈めてくれた。

「怒りなどは私どもとの暮らしには必要ないものです。どうかお捨てください」

 その言葉を聞くと僕の心から汚いものはすべて消え去ってしまった。


 ある時、僕のもとに田代さんから手紙が届いた。

 それは僕の造った娘を譲りうけたいという人がいるとのことであった。

 それも一人ではなく複数である。

 でも僕はかわいい娘たちを人のもとにやる気はさらさらなかった。


「子供にはいつか旅立ちの日がくるものです。あなたに愛されるのもこの娘たちの幸せのひとつでしょうが、最愛の伴侶を得るのもまた幸福なのです。この私のように……」

 麻季絵は言い、僕に口づけする。


 娘を他家にやることは身を引き裂かれる思いだが、麻季絵の言葉ももっともだと思われた。


「しかし、この中の誰が娘を幸せにできるのだろか」 

 僕は田代さんが用意した娘たちを迎えたいと要望している人たちのリストを見た。


「この方などどうでしょうか」

 麻季絵は言い、リストから数人を選ぶ。

 麻季絵はリストに添付されている写真を見ていた。彼女が言うには目を見ればその人物の人となりがわかるのだという。



 僕は麻季絵の言う通り、彼女が選んだ人たちに娘を譲るかことにした。

どうか生涯にわたり娘を愛して下さいという手紙を添えて。

 手紙は字が下手な僕に代わり、麻季絵が書いてくれた。

 文字だけは手先が器用な僕が唯一苦手なものだった。

 家政婦の山田さんに買い出しを頼むときのメモも麻季絵が書いてくれた。



 最愛の娘たちを送り出した数日後、かなりの額が僕の預金通帳に振り込まれた。

 難しい税金対策や書類関係は祖父がそうしていたように田代さんに一任した。

 さらに経済的にゆとりのできた僕は麻季絵と共に娘たちを造りあげることに没頭するのであった。


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