第2話 爺さんの自転車に轢かれそうになりました

 歩道を歩いていた。車道とはガードレールで区切られている。車道の反対側は公園でつつじの植え込みが続いている。

 向こうから自転車がよろよろと走って来る。ハンドルが揺れているように見えて危なっかしい。乗ってるのは爺さんのようだ。

 僕の10メートル左前(車道側)をベビーカーを押した女性が歩いている。爺さんの自転車は右側を走っていたがベビーカーの20メートル前くらいから左側に斜交し始めた。よろよろだからスピードは出てないけどベビーカーにぶつかったら大変だ。

 爺さん自転車はよろよろとベビーカーに接近していく。爺さんは80は超えているように見える。顔がこわばっていて肩に力が入っている様子が見える。

 爺さんもまずいと思っているようだ。だけど身体が動かないんだ。

 僕は走り出しかけた。

 と、爺さん自転車はかくっと左にハンドルを切ってベビーカーから離れた。あと1メートルという所だった。

 ほっとした。

 のはいいが、今度は爺さん自転車は僕の方によろよろと近づいてくる。

 白髪の四角い爺さんの顔が近づいてくる。爺さんの顔は引きつっている。爺さんの眼は空をさまよっている。

 僕は立ち止まった。下手に動かない方が良い。そう思ったからだ。

 爺さん自転車は近づいてくる。よろよろと。

 後ずさりしようとしたその瞬間。自転車は停止し爺さんは両足を着いた。あと50センチという所だった。

 爺さんの顔を見つめた。

 爺さんも僕を見た。

 そして「〇△□※◇◆」口の中でもごもごつぶやくと怒ったような目で僕を睨んで、またよろよろと自転車をこいで遠ざかって行った。

 どす黒い感情が湧いてきた。

 でもね。僕も62歳。明日は我が身。自転車にいつまで乗れるかなあ。気をつけよう。

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