第18話 早く行かなきゃ



「すごく面白かったわ!」


 ショッピングモール内のカフェにて。

 俺達は映画の感想を語り合っていた。

 彼女もどうやら気に入ったらしく、会話に熱が入っている。


「ああ、面白かった。ヒロインが良いキャラしてたよな」


「そうそう!特にヒロインが主人公を庇うシーンは痺れたわ」


 確かにあのシーンは良かったな。でも普通逆だよな?

 そう思ったが、水を差すような事は言いたくない。素直に面白かった所を語るべきだろう。


「告白のシーンも良かったよな。良く言った!と思ったよ」


「そうそう。鈍感な主人公だったけど決めるところは決めるって感じよね。私もあんな告白されてみたいわ」


「心は好きな人とかいるの?」


「いるわよ」


「えっ!?」


「い、いたら悪いの?」


「いやいやいや、何か以外だなーと思って」


「ふーん。あんたはそのー、す、好きな人とかいるの?」


「俺は...」


 ふと巡井さんの顔が浮かんだ。

 何でこのタイミングで巡井さんの事を思いだすんだ。

 巡井さんは友達。だから恋愛感情なんてないはず。ないはずなんだ。

 だけど...


「俺は...分からない」


「分からない?」


「あぁ。何とも言えないんだ」


「なるほど...ね。ごめんちょっと席外す」


 そう言って心は席を立った。


 まさか心に好きな人がいるなんて知らなかった。恋愛をしているイメージはなかったが、心も高校生だしいても可笑しくはないか。

 相手は誰なのだろうか?

 聞いても教えてくれそうにはないな。


 俺はしまっていた携帯電話を取り出す。


「熱っ!」


 携帯電話に触れると何故かかなりの熱を帯びている事が分かった。


 俺はマナーモードを解除し、ホーム画面を確認する。すると、メッセージアプリの未読が100件を越えていた。


 俺は急いでメッセージアプリを開きメッセージを確認する。

 100件のメッセージは巡井さんからのものだった。


 彼女に何かあったのではないかと心配しながらメッセージを開いた。


 巡井『大来帰君起きていますか?今日はいい天気ですね』


 巡井『用事が早く済んだので、お家にお伺いしてもいいですか?』


 巡井『家の前まで来ちゃいました』


 ・

 ・

 ・


 巡井『大来帰君今起きてますか?何で反応がないんですか?』


 巡井『もしかして家の外に出ているんですか?反応してください』


 巡井『どこに出掛けているんですか?反応してください』


 ・

 ・

 ・


 巡井『場所を教えてください』


 巡井『すぐに向かいますので動かないでください』


 巡井『もし人気の少ないところにいるようでしたら人のいる場所かお店に入ってください』


 ・

 ・

 ・

 巡井『今家の前にいます』


 巡井『お願い反応して』


 巡井『どこにいるの?』


 巡井『お願い』



「...何だこれは?」



 彼女から送られてきた大量のメッセージに戦慄する。

 どうやら俺の居場所を確認するためのメッセージのようだ。

 彼女からメッセージを送られる事は何回かあったが、こんなに大量のメッセージが送られてきたのは始めてだ。


 何故俺を探しているのだろう?

 彼女との約束もなく見当がつかない。

 昨日家から出るなと言っていたがそれの事だろうか?


 彼女からメッセージを送られる事は何回かあったが、こんなに大量のメッセージが送られてきたのは始めてだ。


 俺は巡井さんにメッセージを返す。


 大来帰『何かあったの?今ショッピングモールにいるよ。もうすぐ家に帰るから』


 メッセージを入力するとすぐに既読がついた。


 巡井『良かった』


 ピコン!という音と共にメッセージが返ってきた。しかし、


「あっ...」


 メッセージの受信と共にスマホの電源が落ちる。

 スマホが熱を帯びていた為、電池残量が早く減ってしまったのかもしれない。

 最後に『良かった』というメッセージが見えたが何だったのだろうか?

 メッセージの数からきっと只事ではなかったはずだ。


 巡井さんと連絡を取るためにバッテリーを買うべきか?いや、巡井さんは俺の家の前にいるらしい。

 ここから走って家まで向かえばまだ巡井さんがいる可能性が高いか。

 バッテリーを買って待つ時間も惜しいな。

 もし彼女に何かあったら俺は...


「行かなきゃ」


 俺は携帯電話をポケットにしまい立ち上がった。


「お待たせ。あれ?どこか行くの?」


 そこへ心が帰ってきた。


「本当にごめん。友達に何かあったかもしれないんだ。だから俺行かなくちゃ」


 きっと俺は最低な事を言っているのだろう。

 でも何かあってからじゃ遅いんだ。


「分かったわ。荷物は私が持って帰るから」


「いいのか?」


「いいも何も。友達に何かあったかもしれないんでしょ?私の事は気にしなくて大丈夫よ。行ってあげて」


「ありがとう。心」


俺は心を置いて駆け出した。








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