第16話 心の過去3
「心は真面目に掃除をやってたよ」
私は瞳に溜まる涙を擦り、顔を挙げる。
すると、図工の時間以来目で追っていた少年の姿がそこにあった。
濁った視界の中でも彼の存在だけは確認できた。
「大来帰君それは本当ですか?」
「本当ですよ先生。それに同じ班の子も見ていたと思いますよ」
その言葉を聞き、班のクラスメイトはバツの悪そうな顔をした。
「う~ん。困りましたね。誰が犯人なんでしょうか」
その時また誰かが言葉を発した。
「じゃあ大来帰じゃね」と
「えっ!俺?俺はやってねぇよ。お前さっきから人の名前ばっかり上げてるけど何か理由でもあんの?そう言えば、お前よく箒で野球してるよな。まさかな」
「は、え、は?お、俺じゃねーし!本当はお前なんだろーがよー!」
「だからチゲーって言ってんじゃん!」
それからは酷いものだった。あーだこーだと酷い言葉が飛び交った。それはまさに子供の喧嘩だった。
結局、収集をつける為に二人は先生に怒られ喧嘩両成敗。
窓を割った犯人探しはその事態に隠れ、結局は喧嘩をした二人が責任を取ることになった。
当時余裕なんてなくて気づかなかったが、動揺の仕方や他人の名前ばかり挙げたり、終始落ち着かない態度を取っていたあの少年が本当に犯人だったのかもしれない。
そして、責任を取らされた大来帰君には申し訳ない気持ちで一杯だった。
もしかしたら私のせいで叱られて怒っているかもしれない。
それでもちゃんと言葉にしたくて私は彼にお礼を言った。
「大来帰君助けてくれてありがとう」
「ん?俺は本当の事を言っただけだよ。それに真面目に掃除をしていた心が怒られるなんてばかみたいじゃん。スッキリしないだろ?そういうの」
彼はあっけらかんと答えた。
まるで当たり前の事のように。
そんな彼の言葉に私の中の何かが砕けた。
ただ外面を整えただけのような私とは違い、本物の優しさを感じたから。
自分のメッキが剥がされ丸裸にされたような感覚。
自分の中の考え方が組み換えられるような衝撃。
これが私の人生における分岐点だったのかもしれない。
だから、この出来事は忘れられないものになった。
そしてこの時は想像しなかっただろう。
彼と高校で再開する事を。
高校で再開した彼は私の事なんて忘れていて、それでも彼の事が気になって。
そして知るだろう。
そんな彼が何もかも失って、孤独にうちひしがている事に。
「何辛気臭い顔しているのよ」
「心さん?今は一人にしておいて欲しいんですけど...」
嘘。
彼は本心から一人になりたいなんて思っていなかった。
だって、話しかけてくれた生徒が自分から離れていく度に切なそうな、悲しい表情をしていたから。
本当は寂しくて、誰かと話したくて、不安だったのだろう。
だけど踏み出すことが怖くて、殻にこもる事しか出来なくなっていたのだ。
─あなたを一人になんてしてあげない。
「心でいいわ」
「え?」
「呼び捨てで良いって言ってるの。同い年でしょ?」
「は、はぁ」
私は決断するんだ。
彼を助けとうと。
あの時助けて貰った恩を返そうと。
「大来帰何か困ってる事はない?話くらいだったら私が聞くわよ」
「はぁ。心さんは何で僕なんかに構ってくれるんですか?」
「心で良いって。悩んでいるクラスメイトに声をかけるのは当たり前でしょ?それに...」
「それに...?」
「せっかくのクラスメイトと仲良くなれないなんて私ムズムズしちゃって。スッキリしないでしょ?そういうの」
そしてこの気持ちの名前を知るために。私は動き出した。
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