第14話 心の過去1
私は人に褒められる事が好きだった。
お母さんのお手伝いをした時。
お父さんの肩を叩いたとき。
困っている誰かに手をさしのべた時。
『心ちゃんは偉いね』『心は良い子だな』『心さんは周りのお友達の事を考えられてすごいですね』
大人達はそう私を褒めてくれた。
だからもっと褒められるように頑張った。
その過程で大人の顔色を窺うことを覚えた。覚えてしまった。
だから大人の嘘も分かるし、周りの人達が何を考えているのか何となく分かるようになった。
聞かれずとも大人達の要望に答え、友達思いの少女。
きっと私はそんな気味の悪い小学生だった。
思い出すのは小学4年生の頃。
図工の時間に紙粘土で作品を作る授業だった。
私は皆に褒められたくて可愛い犬を作っていた。
だけど上手くはいかなかった。
私にだって出来ないことはある。
努力をしたって自分の思い通りにはならない。
そんなのは当たり前で分かっていた事なのに、当時、幼い私はどうしようもなく自分自身に苛立ちを覚えていた。
「心ちゃんそれなに?変なの~」
「詠之葉のブタ?みたいなやつ変な顔だな」
そんな中、子供達は純粋だった。客観的に見てそれがブサイクであることは分かってた。だから、言い返すのなんてお門違いだし仕方がないと思ってた。だけど...
「こらこら二人とも人の作品にケチつけちゃダメでしょ。心ちゃん先生に見せてみて。わぁー上手に作ったわね。そのーえーと...おサルさんかな?可愛く出来たわね~」
嘘。
その嘘が気にいらなかった。大人達は人を傷つけないように平気で嘘をつく。それがやさしい嘘だと知っていても当時の私には不必要な物だった。
だって、人の気持ちが、周りの人の考えていることが分かるから。
だから本心から褒めて欲しかった。偽りの称賛なんて自分がバカにされているようで、ひどく悔しかったから。
だから言い返そうと思った。
『これは犬です。ブタでも猿でもありません!先生は嘘つきです。本当は可愛いなんて思ってたないくせに!』
きっと喉元まででかかっていただろう。
それを言ってしまえば良い子のレッテルに傷がつくとも知らずに。
だけど
「先生、それサルじゃなくて犬だよ。それにチワワっていうやつでしょ?」
一人の男の子が話しかけてきたのだ。
「そうなの心ちゃん?」
「はい...」
「みんな見る目ないなー。どう見てもチワワじゃん。それにこの表情笑っている。可愛いね」
瞬間─私は彼の顔を見た。
顔を見れば相手が本心から言っているのか、そうでないのか分かってしまう。
もしかしたら、私を気遣ってやさしい嘘を言ってくれたのかもしれない。
だけど、見られずにはいられなかったのだ。
それはどこにでもいる普通の少年だった。
特に目を引く所なんてない。
だけどその顔は、その笑顔が彼の言葉が本心であると物語っていた。
その時、私の中のイライラは治まっていた。
彼の言葉が私にブレーキをかけてくれたのだ。
自分の醜い所も認めて欲しい。
結局は私も子供だったのだろう。
でも嬉しかったのだ。
だから自然と言葉が出た。
「ありがとう...」
「えっ?」
「褒めてくれてありがとう。大来帰君」
そう。これが彼との初めての会話だった。
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