第12話 嫌いじゃない
憂鬱な朝がやってくる。学校のある日は布団から出たくない。いつもなら鉛のように重い布団だが今日は違った。
待ち合わせの時間通りに家を出ると、彼女の姿が視界に入った。
「おはよう、巡井さん」
「おはようございます。大来帰君」
彼女と一緒に登校する。
これも俺の中の当たり前になろうとしていた。
並んで歩く二人の鞄には星形の花が集まったネックレスが着けられていた。
「また放課後に」
「はい!」
巡井さんと別れた俺は教室に向かう。
通りかかった空き教室を覗くと、文化祭に向けて作られた各クラスの道具が見えた。
文化祭まで期間も残り僅かだ。放課後に準備をする機会も増えるだろう。
教室に着いた俺は鞄を掛け、とある人物の方に視線を向ける。
すると、視線の先の主と目が合いこちらに近づいてきた。
「おはよう心」
俺は彼女と挨拶を交わす。
「文化祭の事なんだけどそろそろ本格的に飾り付けとか準備した方が良いよな」
「そうね。そのことで話をしようかと思ってたわ」
彼女は文化祭の準備について書かれているであろう紙を机に置いた。
「ここの飾りつけをしたいんだけど、学校にあるものじゃ無理そうなのよね」
「確かにそうだな」
「そこで、飾り付けの材料を買いに行こうと思ってるんだけど」
「俺も一緒に行くよ」
「助かるわ。予定の空いている日ってある?」
「基本的にいつでもおkだな。そっちの都合に会わせるよ」
「じゃあ、私の予定が決まり次第連絡するわ。あー...」
「ん?」
どうしたのだろうか?
「そういえば連絡先知らなかったわ..」
「あー...そうだな」
「連絡先交換しましょうか」
「い、いいの?」
「連絡先知っていた方が色々と楽でしょ?」
「そ、そうだな」
「はい、携帯出して」
彼女に言われるがまま連絡先を交換した。待ってくれこころの準備が...
「携帯じっと見つめてどうしたの?」
「い、いや何でもない」
「そう。じゃあまた何か合ったら連絡するから」
そう言って彼女は去って行ってしまった。
連絡先を確認すると彼女名前があった。
クラスメイトのそれも女子の連絡先を手に入れてしまった。
巡井さんの時もそうだったが、何か嬉しいな。
文化祭も近いし、準備は彼女に甘えてばかりだったからな。役に立つぞ!
****
金曜日の放課後の自宅。
俺は今週も学校を耐えきった。
耐えきったと言うが、実際は楽しんでいたかもしれない。
クラスでは文化祭の準備をして、登校と放課後の時間は巡井さんと一緒だった。
思い返せば充実した時間だったのだろう。
いつ以来だろうか。学校を楽しいと感じたのは。
学校に登校しても友達と呼べる存在は居なく、腫れ物のように扱われる日々。
その中で憂鬱な授業を淡々と聞き流す毎日。
クラスにいると自分のぼっちが目立ち、それが嫌でよく屋上に行っていたものだ。
そんな毎日に価値はなく、まるで義務のように過ごしていたんだ。
唯一の救いと言えば、心が話しかけてくれた事。彼女は分け隔てのない性格で、きっと自分に対する態度もその性格からだとは分かっている。でも嬉しかった。彼女には感謝している。
そして今一番接点があるのは巡井さんだろう。
最初はストーカーをしていたし、ちょっと変わった子だと思っていた。
でも、一緒に学校に行ったり、買い物をしたり、デー...お出かけをしたりして彼女を知る事が出来たんだ。
まだ全部を知っている訳ではないが、彼女と一緒にいる時間が楽しかったのは本当だ。
きっと彼女の存在が自分の中で大きくなっていたんだろう。
だってまた遊びに行きたいと、外に出たいと思えたのだから。
そんな事を考えているとピコーンと言う着信音が響いた。
携帯を開き、メッセージを確認する。
巡井『大来帰君は今週末予定はありますか?』
メッセージは巡井さんからのものだった。
大来帰『予定はないよ。巡井さんは何か予定はあるの?良かったらどこか遊びに行かない?』
俺は勇気を振り絞って巡井さんを誘ってみる。
巡井『すみません。私は用事があるので難しいです』
巡井さんのメッセージを見てがっくしとする。
彼女にも予定があるのだ。また都合が合う時に誘えば良いだろう。
そうすると何故彼女は俺の予定を聞いてきたのだろうか?
予定を聞いて来るのは今になって始まったことではないが、少し気になる。
大来帰『全然大丈夫だよ。それよりも何か俺に用事があって連絡したんじゃない?』
巡井『はい。予定と言うか、大来帰君に予定がないかを確認したかったんです』
大来帰『どういうこと?』
巡井『予定がないなら大丈夫です。大来帰君も家から出ないでくださいね』
大来帰『予定はないから大丈夫だと思うよ』
巡井『それは良かったです。おやすみなさい』
大来帰『おやすみ』
巡井さんとのやり取りが終わった。
結局何が聞きたいのかわからないままだった。今の所予定も無いし、週末は大人しく家でのんびりしていよう。
そう思った瞬間またピコーンという着信音が響いた。
俺はもう一度携帯を開く。
「心…?」
それは心からのメッセージだった。
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