第11話 カランコエの誓い




 アクセサリーショップについた。


「何のアクセサリーが欲しいんですか?」


 彼女に尋ねられ、商品の値札をさりげなくチェックする。


 高っ!今見ている売り場の物はどれも良いお値段だ。流石にこんな高価な物を買わせる訳にはいかない。


「この売り場にはなさそうかな!む、向こうの売り場見に行こうか」


 高価なアクセサリー類に背中を向け、別の売り場に向かった。


 ネックレスの売り場に着く。


 ここの売り場は比較的値段も高くなく、これなら良心が痛まなそうだ。

 ペアネックレスなんてあるんだなぁと見ていると、気になるデザインの物を見つけた。


 小さな星形の花が集まって咲いている様な装飾のネックレスだった。

 他の物と比べて存在感があった。

 良く作り込まれているな。


「そのネックレスが気になるんですか?」


 彼女の問いかけにスッと値札を確認して答える。


「うん。これ気に入ったかも」


 値段を確認し問題ないと判断した。デザインも気に入っており、壺よりは100倍ましだろう。


「分かりました。これを買ってきますね!」


 満足した表情の彼女はレジに向かっていった。


「はい。大来帰君にプレゼントです」


 彼女の手の中で星形の花がキラキラと光っていた。俺はネックレスの片方を掴み、彼女を見つめる。


「ありがとう、大事にするね。もし良かったなんだけど、もう片方は巡井さんが貰ってくれないかな?」


 気に入ったデザインだが、ペアネックレスだ。二つとも俺が持っておく必要もないだろう。


「良いんですか?もしかして、私の事も考えて......えへへ」


 巡井さんは表情を崩して嬉しそうに呟いた。


「私と大来帰君とでお揃いですね♪」


 確かにお揃いになってしまった。

 ペアネックレスを選んだ時点で逃れられなかった気がするが、嫌じゃないな。いや、ちょっと嬉しい。

 何かこういうのカップルみたいだ。

 そう考えると顔が熱くなってきた。


「そ、そうだね。巡井さんは嫌じゃない?」


「全然!むしろ...嬉しいくらいですよ。大来帰君は嫌じゃないですか?」


「俺も...嫌じゃないよ」


「そうですか...えへへ」


 彼女は照れ臭そうに微笑んだ。

 顔が真っ赤だった。

 俺もきっと似たような表情になっているだろう。


 お互いの手に握られたネックレスだけは変わらぬ表情で輝いていた。


 ****


 ショップモールの帰り道。

 巡井さんに家まで送ろうかと尋ねたが断られてしまった。

 それに加えて『私が大来帰君を家まで送って行きます!』と言われてしまい、送って貰っている最中だ。


 先人よ、俺には貴方達の知恵は早かったようだ。


 隣を歩く巡井さんは終始嬉しそうな表情をしており、初めてのデートにしては及第点を貰っても良いのではないかと考えてしまう。


 そんな事を考えていると、自分の家に到着した。


「巡井さん、ありがとう。今日は楽しかったよ」


「こちらこそ楽しかったです!またお出かけしましょう」


「うん。また行こうね」


「はい!」


 彼女に手を振りながら別れの挨拶を済ました。


 今日の事も忘れられない思い出だな。

 そう思いながら、彼女の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


 ****


 彼と別れた私は家に帰宅した。

 玄関の鏡に映る自分の首元には、彼とお揃いのネックレスがあった。


 今日の1日を振り返る。

 どの瞬間を切り取っても幸せな時間であった。

 きっと私は幸せ者だ。


「また一緒にデートに行く事が出来た。きっとこれからも」


 鏡に向かってそう呟いた彼女は、今日の出来事を忘れぬように何度も何度も思い返す。


「あらたくん...」


 そして愛おしそうにネックレスを撫でた。






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