第7話 素敵な晩餐



 授業を耐えきった俺が校舎から出ると、生暖かい風が頬を撫でた。

 グラウンドでは、トンボがけをしている運動部の姿。

 隣の駐輪場では、帰宅部であろう生徒が集まり対流を起こしている。


 徒歩で通学している俺はそんな姿を視界の端に置き校門を目指す。校門を出て、視線を揺らすと目立ての人の姿が確認できた。


「あっ。大来帰君!」


「ごめん、待った?」


「全然待ってないのです!」


 腕をブンブンと振るう巡井さん。俺の方が遅かったか。


「それじゃ行こっか」


 俺たちは歩き出した。


 ****


 スーパーに到着する。

 エコバックを持った主婦と思われる人達が、忙しく買い物をしている。ちょっと混んでるな。夕方だし仕方ないか。


 俺は、混み合っている青果コーナーや、精肉コーナーから逃げるようにカップ麺の売り場に向かう。


 いつも通りのラインナップをかごに詰めていると巡井さんに声をかけられた。


「カップ麺が好きなんですか?」


「好きっていうか、一人暮らしをしていると色々面倒な時があってな。そう言う時にカップ麺があると楽なんだよ」


「ちゃんとしたもの食べれてますか?」


 うーん。結構レトルトとかで、済ましちゃう時もあるんだよな。


「一応自炊もするよ。でも加工品で済ませちゃう事が多いかな」


「一人暮らし大変ですよね」


「巡井さんも一人暮らしなの?」


 一瞬、顔を暗くした巡井さんすぐに表情を戻し答えた。


「そう...ですね。私も一人暮らしです」


「大変だよな。巡井さんはちゃんと自炊してる?」


「一応毎日自炊するようには心掛けていますね」


「おぉ!偉いね」


「えへへ」


 大変なのにすごいな。俺も見習わなくては。


「もし良ければ何ですけど」


「ん?」


「今日夕飯を作りに、大来帰君のお家にお邪魔しても良いですか?」


 期待した眼差しを向ける巡井さん。

 その提案は嬉しい!嬉しいが、申し訳ないな。


「気を使わせてない?大丈夫?」


「大丈夫です。任せてください!」


「それならお願いしようかな」


 素直に楽しみだ。女子の手料理を食べれる何て幸せだな。


「ちょっと食材を確保してきますね」


「俺も一緒に行くよ。ところで何を作ってくれる予定なの?」


「大来帰君の好物のハンバーグを作ろうかなって」


「おおー」


 ん?


「それともグラタンの方が良いですか?大来帰君好きですよね?」


 はて?好物の話何てしたかな。何で知っているのだろう?


「俺好きな食べ物の話なんてしたっけ?」


「あ、あぁ、ちょっと友達に大来帰君の事聞いたんですよ」


「そうだったんだ」


 う~ん俺友達いないけど誰に聞いたんだろう...。事故前に仲が良かったクラスメイトかな?

 それなら知っていてもおかしくないか。


「うん、お任せするよ」


「はい!じゃあハンバーグにしますね。勿論ニンジンのグラッセもつけるので安心してください」


「本格的だな。楽しみだよ」


「腕によりをかけて作りますね!」



 ****


 買い物を終えた後自分の家に到着する。


「お邪魔します」


「あがって、あがって」


 住み慣れた家のはずなのに、何故か緊張する。


 この歳になって、同級生の女の子が自分の家に来るなど想像もしなかった。俺にとっては非現実のシチュエーションと言えるだろう。


「早速作りたいのですが、キッチンお借りしても良いですか?」


「うん。こっちだよ」


 俺はリビングに巡井さんを招き入れる。


「料理道具もろもろお借りしますね」


「どうぞどうぞ、お願いします」


 迷いなく、エプロンに腕を通す巡井さん。

 それ俺の......まぁいっか。似合ってるし。


 まな板を取り出し料理を始める。


 あれ?本当に家に来るの初めてだよね?何処に何があるか把握してるみたいにスムーズだけど...


「俺も何か手伝うよ」


「大丈夫です。出来たら呼ぶのでゆっくりしててください」


「本当にいいの?」


「はい!」


 彼女はニンジンを片手にはにかんだ。

 そこまで言うなら、お言葉に甘えようかな。


「何か困ったことがあったら呼んでね」


「は~い♪」


 ****


 俺が心地の良い料理音を楽しんでいると、鼻腔をくすぐるいい香りが漂ってきた。


「大来帰君出来ました!」


 満面の笑みを浮かべる彼女の前に並べられた料理を見た。


 デミグラスソースのかけられたハンバーグ。その隣には、ニンジンのグラッセと温野菜。トマトとレタスのサラダにコーンポタージュ。そしてほかほかと湯気の放つ白米。


 何だこの完璧なメンツは。

 そこには俺の理想が存在していた。


「どうぞ食べてみてください」


「いただきます」


 期待の表情を浮かべる彼女に見つめられ、ハンバーグを口に運ぶ。


 本格ながらもどこか家庭的な優しさを感じる味。人の手料理を食べるのも久しぶりだな。人に作って貰う料理ってこんなに美味しかったっけ?いや、巡井さんがきっと料理上手なんだな。まさに俺好みの味であり...


「めちゃくちゃ美味しいよ。最高だな」


「本当ですか!良かったです!」


 彼女の表情がパァと明るくなった。

 最高の料理と最高の笑顔を浮かべる美少女。


 何だ俺死ぬのか?こんなに幸せな事があっていいのか?もしかしてこの後、壺の話とか出てくるのか?いいよ、俺買っちゃうよ。


「壺っていくらくらいなの?」


「ヘ?壺が欲しいんですか?」


「いや、何でもない。」


「そうですか、お代わりもあるので沢山食べてください」


 幸せな時間は続く。
















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