第6話 何か良いな




 洗練された朝のルーティーンを済ました俺は、学校へ向かうべく家を出た。


 今日はいつもに比べて気分が良い。


 友達が出来たからだろうか。


 そんな気分で俺はふと後ろを振り返った。

 ここ最近の事で、振り返るのが癖になってしまったのだ。


 視線の先には、電信柱からはみ出したスカート。


 俺に気づいたのかスカートの主は、ひょっこりと顔を出し笑顔で会釈する。俺も連れて会釈を返し学校へと足を向ける。


「何やってんだ?」


 そんな疑問を胸にもう一度振り返る。


 するとひょっこりスタイルの巡井さんがこちらに手を降ってきた。俺も連れて手を降り返す。


「......」


 よく分からない。何がしたいのだろう?


 そんな事を考えながらもう一度振り返ると、ひょっこりスタイルの巡井さんが破竹の笑顔でダブルピースを決めてきた。


 俺も負けじとダブルピースを繰り出す。


 何か楽しくなってきたな!というか...


「何で隠れるんですかー!巡井さーん!」



 ****



「おはよう」


「おはようございます」


「何で隠れてたの?」


「それは...」


「別に話しかけてくれれば良いじゃん」


「昨日...メッセージアプリで粗相を...」


 ん?昨日のメッセージアプリで粗相?

 もしかして、行きつけのスーパーの件で俺が怒ってると思ってるのか?


「別に気にしてないよ」


「本当ですか!ありがとうございます。今度からは口が滑らないようにしますね」


「他にも何か隠してることあるの?」


「......」


 視線を反らす巡井さん。

 黙っちゃったよ。何かわざとやってるんじゃないかと思えてきたぞ。


「まぁ良いや。遅刻しないように歩きながら話そっか」


「はい!」


 巡井さんと並んで話しながら歩く。

 歩幅は普段よりも短いはずなのに、足取りは軽やかに感じる。


 何か良いなこういうのって。

 長らく友達とかいなかったし、誰かと話しながら登校とかしてみたかったんだよなぁ。

 そんな時間はあっという間に過ぎ去り、学校に到着してしまった。


 そして、会話の中で今日の帰りに、二人でスーパーに寄ってくことが決まった。


「放課後、校門で待ってますね」


「あぁ、分かった。またね」


 軽く手を振り、階段で巡井さんと別れた。


 教室に入り、自分の席着く。

 周りを見渡すと、いつも通りのグループで固まっているクラスメイトの姿が目に入る。


「フッ...」


 しかし、そんな奴らを見ても俺は落ち込む事はなかった。


 何故勝手?おいおい、語るまでもないだろ!俺には友達がいるんだ。心の落ち着きが違うのだよ!


「何、ニヤニヤしてるのよ。今日は気分が良さそうね」


「おはよう、心」


「えぇ、おはよう」


 挨拶を交わす。


「昨日は何か、落ち込んでたみたいだけど、もう大丈夫そうね」


「あぁ」


「そう。良かったわね」


 心にはお見通しみたいだな。

 今日も声をかけてくれた。もしかしたら、昨日の事で心配をかけてしまったかもしれない。


「いつもありがとな」


「べ、別に何もしてないわよ…!」


 腕を組み視線を反らす彼女。照れ隠しからか顔がうっすらと赤い。しかし、その表情は嬉しそうでもあった。


「そう言えば、2年C組の巡井翔鈴って知ってるか?」


 俺がそう言った瞬間。彼女の顔から、すうっと笑顔が消えた。首筋に冷たいものが触れたような...


「知ってるけど、何で?」


「ちょっと話す機会があってさ。どんな子なのかなって」


「ふーん。彼女可愛いものね」


「か、顔とかじゃなくて、性格とかどんな感じなのかなって」


 確かに顔は可愛いな。うん。


「そうね。見かけたのは1年の時だけど、ちょっと前のあんたと同じ様な感じに見えたわ」


 俺とあいつが同じ?ちょっと前って俺が荒れてたときか?


「俺みたいに荒れてたのか?」


「同じクラスだったわけじゃないから分からないけど、何か思い詰めている様な感じだったわ」


 あの天然でおとぼけキャラの巡井さんが?本当に同一人物か?


「そんな風には見えなかったけど...」


「そう。私が見かけたのも前の事だし、もしかしたら気のせいかも知れないわ」


「なるほどな」


「えぇ。話しは終わり?私は席に戻るわね」


「あぁ」


 心何だか機嫌悪そうだったな。

 それにしても、俺の知っている巡井さんとイメージが合わないな。


 もしかして、無理してキャラ作ってるのか?


 そんな風には見えなかったけど...。

 まだ出会ったばかりだし、誰しも悩みの1つや2つぐらいはあるか。今は気にするだけ無駄かもな。


 少し気になる点もあるが、今日の買い物がちょっぴり楽しみだったりする俺は、迫りくる憂鬱な授業にも少しだけ頑張れそうな気がした。

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