第3話 ストーカー少女との邂逅1

 放課後を迎えは校舎を出た。校門を出る前に今一度後ろを確認する。


「まだ居ないか」


 あのストーカー女さんが、姿を表すのは学校を出て暫く歩いてからである。学校では俺をつけている気配は感じない。


 今日こそは何で俺をつけているのか聞き出そう。


 五分ほど足を進めてそろそろかと思い、後ろを振り返る。

 すると、あたふたしながら壁に向かって両手を大の字に広げ、壁と一体化したストーカー女さんの姿が見えた。


「いやいやいや、それは無理があるでしょ!」


 俺は、そのシュール過ぎる様子に声を出さずにはいられなかった。

 本当に何をやっているんだ?

 呆れ半分感心半分。

 いつも俺の想像の上を行く隠れ方をする。

 いや、もう隠れられてないと思うけど......


「──行ってみるか」


 彼女は隠れているようだが、このまま放っておくのも釈然としないので、自分から声をかける決心をする。


 壁とうつ伏せの状態で一体化しているストーカー女さんの後ろに移動した。

 近づいてみてもストーカー女さんは『私は壁です』と言わんばかりに微動だにしない。

 彼女の長い黒髪と壁に力強く添えられた腕は『話しかけるな』と無言の圧力を発しているように感じる。

 少し勇気がいるが、俺は圧力を振り切り声をかけた。


「そこで何しているんですか?」


「......」


 無視された。

 聞こえてないのだろうか?


「聞こえてますか~?」


「......」


「お~い」


「......」


 無視。


 この期に及んでバレてないと思っているのだろうか?


「最近よくお見かけするんですけど、何か俺に用があるんですか?」


 すると、ビクッと身体を震わせた彼女がもごもごと話し出す。


「......ち、違います......」


「ん?」


「用なんてないです......」


「じゃあ、何しているんですか?」


「か、壁に向かってキスの練習をしていました......」


「はい?」


 余りにも意味不明な返答に困惑する。

 飽くまでシラを切るつもりなのだろうか?

 このままでは埒が明かないので、本題に入ろう。


「勘違いかもしれませんが、最近俺の事つけていませんか?」


「......」


 まるで時が止まったかのように彼女はピタリと動かなくなった。

 数秒、その場を沈黙が支配する。

 その後、彼女はぷるぷると震え始めた。

 そして、


「すみませんでした!」


 潔く発せられた言葉と共に彼女が振り返る。


 その姿は可憐だった。

 黒く艶のあるロングヘアーに、細身の体躯。

 ライトヴラウンの大きな瞳は潤んでいるり、眉は困ったように八の字を書いていた。

 整った顔だちには、幼さを残しつつも美しい。

 紛れもない美少女であった。


「......」


 その可憐な姿に息を飲んだ。


「ごめんなさい......」


 彼女は、うるうるとした瞳でうつむきながら白状した。


「俺の事つけてました?」


「......はい」


「何で俺をつけてたんですか?」


「実は......」


「実は?」


「その......す......」



 濁されながら話された事で聞き取れなかった俺は、彼女に聞き返した。



「す?」


「す...ぃ......だ...」


「ごめん聞こえな...」


「大来帰君の事が好きだから!!」


「ほへ......?」


「だから私と付き合ってください!!」


「ええええぇーー!?」


 俺の頭はパンクした。













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