第2話 俺はぼっち
教室に着いた俺は、机の横に荷物をかけ、席に着く。
教室を見渡せば、机を囲み各々グループを形成したクラスメイトの姿が映った。
彼、彼女らが独自の世界を広げている間に俺の入る余地など無い。
そう、もしかしなくとも俺はぼっちだった。
言い訳をさせて貰えるならば、俺も一年生の頃に話し相手くらいはいた。
事故の事もあり、長く学校を休んでしまったが、そんな俺にも声をかけてくれたのだ。
しかし、俺はそんな奴らを蔑ろにした。
当時は荒れていて、そんな余裕がなかったと言えば簡単だが、自業自得である。
同情から、優しく声をかけてくれるクラスメイトや先生に素っ気ない態度をとった。
そんな事を繰り返し続けた結果、
『事故で両親を失った可哀想なやつ』
『可哀想だからそっとしておいてあげよう』
そんな噂が広まった。
そのせいかニ年生に進級してから、哀れむような視線を送ってくる事はあっても、話しられる事は少なかった。
そして、自分からも話しかけに行かなかった。
完全に自業自得である。
俺はこの事を深く後悔している。
「何で俺って生きてるんだろ......」
自分の存在価値を疑う様で、どんよりとした気分になる。
失くなってから気づくものの方が多いと言うのは正にその通りだ。
『身近な人をもっと大切にすれば良かった』何て言っても後の祭りであると強く実感した。
沈んだ気分のまま机に項垂れていると、ふと声をかけられる。
「朝から辛気臭いオーラ出して、何してんのよ」
自分にかけられたであろうその声に反応し、顔を上げる。
すると、金髪の女子生徒が視界に入った。
高い位置で結ばれたポニーテイルに、低めの身長だがスラリとした体躯。
ややつり上がった目尻がキリッとした印象を与える。
輝くサファイアブルーの瞳の主がこちらを捕らえていた。
彼女の名前は
俺に声をかけてくれた一人、いや、今でも声を掛けつづけてくれる唯一の存在だ。現在は文化祭委員の相方でもある。
「おはよう、心」
「えぇ、おはよう」
気だるい身体を起こし彼女に挨拶を返す。
「また暗い事考えてたんじゃないの?」
ふと、心が呟いた。
彼女は疑い深そうな瞳をこちらに向けている。
「うっ......バレてたか」
「やっぱりね、そんな事だろうと思ったわ」
彼女の勘は鋭い。
まるで胸の内を覗かれているのではないかと感じる時もあるくらいだ。
「俺、友達いないなって思って......」
「ちょっと前まではすごい荒れていたものね」
「そうなんだよな......こんな俺に話しかけてくれるのは心くらいだよ」
そう言うと、少し彼女の顔が赤くなったような気がしたが、すぐに真剣な眼差しでこちらを見つめてきた。
「まだ辛い事もあるだろうけど、あんたの事を気にかけている人もいるわ。自分で背負い込まないで、困ったら誰かに頼ってもいいのよ」
「そうだな。ありがとう」
彼女は励ましの言葉を聞き胸の内側が少し暖かくなる。
彼女は気配りの出来る優しい人物だ。
それは普段の行動やクラスメイトに対する言動を見ていれば分かる。
そもそも、こんな俺にも気を使って話しかけてくれるのだ。
そんな彼女にどれだけ救われてきたか。
俺は胸の中でそっと手を合わせた。
「それとこれ」
心は透明のファイルから一枚の紙を取り出し、机を上に置いた。
「文化祭の資料。職員室から貰ってきたから、あんたにも渡しておくわね」
「助かる」
本当に気が利くな。
それにしても、文化祭か。
俺が通う高校では七月の中旬に文化祭が開催される。クラス単位で行っており、HRごとに出し物を決める。今はその準備期間だった。
「資料に目を通しておいて、何かあればまた伝えるわ」
「ああ、分かった」
そう言った彼女は、手をヒラヒラとさせながら自分の席へと返っていった。
資料に目を通しているとチャイムが鳴り、
ホームルームが始まる。まだ朝だった事を思い出した俺は、これから始まる憂鬱な授業を想像し、ため息を吐くのであった。
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