美少女のストーカーに告白されたのでまずはお友達から始める事にしました!
岡田リメイ
第1話 ストーカーの影
俺は不幸だ。
半年前ならば、世界で一番不幸だったかもしれない。
思い出すのは、家族で旅行に行った帰りの車の中。
運転席に父さん、助手席に母さん、後部座席には俺。
カーブした道が多く、良く揺れるなぁなどと思っていた。
揺れる車体の中では、家族と思い出話に華を咲かせていた。
『温泉が気持ち良かった』『あの料理が美味しかったね』『お父さんは食べ過ぎだったよ』『でも楽しかった』『また行こうね』
そんな内容だったと思う。
父さん、母さんとの他愛もない会話。
それは紛れもない俺の宝物だ。いや、宝物だったと言った方が正しいのだろう。
そんな宝物は一瞬で壊された。
それは突然の事だった。
鳴り響くブレーキ音。
正面からこちらに突っ込んでくる大型トラック。
──瞬間、訪れる激しい衝撃。
首筋から腰にかけてシートベルトがキツく締まる感覚が伝わってきた。
ヒリヒリする顔面の痛みに、鼻から唇を伝う生暖かな液体。
ガンガンと響く頭に、鉄の味が支配する口内。
何が起こったのか分からなかった。
前を向けば、フロントガラスが、蜘蛛の巣の様にひび割れていた。
その蜘蛛の巣は、無数の赤い獲物を糸の1本1本に捕らえている。
考えたくなかった。
近づいてくるサイレンの音。
俺の叫び声に沈黙で答える両親の無惨な姿。
サイレン音をバクバクとうるさい心臓の鼓動がかき消す。
救急車で両親が運ばれる。
俺は搬送された両親を病院の待合室で待ち続けた。
永く永く待ち続けた。今になってやってくる鼻や腕の痛みが『自分は生きている』という実感を与えてくれた。
この感覚が気持ち悪かった。
待っている間に何度も祈り続けた。
今まで神様に祈った事なんてなかったはずなのに。
何だか助かるような気がして、気持ちが楽になったから。
だが、手術を終えた先生が、俺に放った言葉は祈りとは程遠く、一番聞きたくないものだった。
「残念ながらご両親は......」
途中から先生が何を言っているのか分からなかった。
目の前で話をしているはずなのに酷く遠くに感じた。
情報だけが頭の中に流れ込んでくる。
理解出来なかった。
信じたくなかった。
悪い冗談だと思った。
しかし、見てしまったのだ。温もりが抜け落ちて、白い布で顔を隠された最愛たちを。
それを目にした時理解した。
宝物が壊されてしまったのだと。
****
──ジリジリジリーン!
うるさい目覚まし音が鳴り響いた。
カーテンから漏れる朝の光が、眠け眼を刺激した。
目覚まし時計を止め、気だるい身体を部屋の外へと向ける。
俺──
進級させて貰ったと言った方が良いかもしれない。
半年前に両親が他界したため、この家には1人で暮らしている。
親戚の家から引っ越して来ないかと誘って貰ったが、通っている高校の事があるからと言って断った。
何より、両親との思い出があるこの家から離れようとは思えなかったからだ。
一階に降りテレビをつけると朝のニュース番組が映った。
朝食を済ませるためトースターにパンを入れた俺は、再びテレビに視線を移す。
『次のニュースです』
ニュース番組では通り魔事件が取り上げられており、犯人はまだ捕まっていないらしい。
「物騒だな」
チーンという合図で振り返った俺は、トースターからパンを取り出し、ジャムを塗って頬張った。
「行ってきます」
支度を整えた俺は家の外に出る。
まだ六月だというのに外はじめじめと暑かった。
飼い主に連れられた犬が尻尾をブンブンとふり、散歩を楽しんでいる姿が目に入る。
いつもの光景だ。
学校へ向かう途中、俺はふと後ろを振り返った。
「やっぱりいるじゃん!」
振り返った先に見えたのは、電信柱からはみ出た制服のスカート。
最初からこうして居ましたと言わんばかりに、不動を貫く女子生徒の姿を見てため息をつく。
「何やってんだか」
ここ最近の事だが、電信柱に隠れた彼女の事を登下校時に良く見かける。
振り返ると必ず隠れてしまい、顔は確認できていない。
制服から同じ高校の生徒だと分かっていたので、たまたまだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。
(今日でもう一週間連続だしな......)
そんなストーカー紛いの事している彼女だが、不思議と嫌な気はしなかった。
毎回振り返る度に秀逸な隠れ方をするので、ちょっと楽しみだったりもする。
それはそうと、彼女は隠れているつもりなのだろうか?
毎度の事、その余りにも詰めの甘い滑稽な姿に心配すらしてしまう。
「気になるなぁ」
何故、俺を尾行しているのだろうか?
思い当たる節が全くない。
いっそのこと話しかけてしまおうか。
そんな事を考えている内に、ちらほらと登校する他の生徒が見えてきた。
ストーカー女さんは、登校する他の生徒に紛れて分からなくなってしまい、そのまま学校に到着した。
帰りも尾行してくるだろうし、その時話しかけてみよう。
そう思い俺は教室へと向かって行った。
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