第14話 奴隷といったら可愛い女の子という風潮

 食事とアルコールで、ほどよくところで、村の視察も兼ねて、散歩でもするかという流れになった。


 【迷いの森】の中に拠点を作ると高い優位性を得られる反面、一般人の出入りが非常に困難になるため、拠点はこの村と森の両方に作る計画だ。


 生産系、商人系の転生者も、多分に漏れず細分化して存在しているので、その幾人かは、ここで活躍してもらうことになるだろう。



 大都市のほど近くにあり、道もそれなりに整備されている。


 ここが危険地帯に近接していることを除けば、未開拓とはいえ悪くない立地だ。


 土地は広く、迷いの森の影響精霊の加護で、土地も肥沃。


 本来であれば、農業地域でもいいくらいだが、安全性を広範囲で確保するのが現実的ではない為、発展は絶望視されている。


 逆に言えば、手付かずで、為政者から干渉されない、手ごろな開発環境のマップという、生産系の転生者を釣るには、とても良質な餌となりえる。


 さらに片道だけとはいえ【迷いの森】の性質を利用した転移バグ仕様の穴を利用すれば、流通網は不可侵領域内外に及ぶ。


 これが地味に、攻略の最重要な意味を持つ。


「それ以外にも、この村の治安だからこそ発展する施設とかも容易に作れる」

 ――などと、少年が姫に聞かせていると、

「例えば?」

 と、おねーさんが、まっすぐに、とある施設を見据えながら言う。



「あー…… 街の出入りに適さない人や物を、街を経由せずにやり取りできるだけでも大きなアドバンテージだから、人も集めやす――」


「た・と・え・ば・?」


 じっと、視線を外すことなく、圧が強まる。なんなら、これ以上、一歩でも動いたら首を刎ねられかねない、えらく具体的な殺気を感じる。


「例えば、目の前にある奴隷商の店とかな?」


 宿の密集地からは、少し離れたところに、それはあった。


 こぢんまりとした、法具のアンティークショップのような佇まいだが、飾られた品々は、どれもすべて拘束具の類である。

 

 どうやらそれが、店の看板らしかった。


 少年はみあんな亭に行った折に、そういった知識も仕入れていたから、すぐに理解できたのだが、おねーさんも何故か知っていることに、心の中で嘆息する。


「奴隷は、玉石混交、売り物の状態だと、街の出入りも面倒だろうし、ここなら検閲も緩いってことなんだろうな」


「へー……」

 姫は気もそぞろに生返事する。



「さて、じゃいくか――」


「ちょいちょいちょい。待て待て。少年」


 力強く止められる。知ってはいたが、細身なのに信じられないほど強い。



「行きましょう」


「あ?」


「奴隷。見ていきましょう」


 めっちゃシンプルな一言。かつてないほど清々しい。


 圧が強い。取り繕うことも無く、だだ我を通してくる。


「ほら、姫もシーナちゃんも、行きたいって」


「言ってないが?」


 と、少年が即座に返したところで、二人の様子がおかしいことに気づく。


「ほへぇ」


 姫の表情を見るに「奴隷、こんなところで買えるのかぁ――」と言っている。

 

 どうりで街で見かけなかったわけだぁ。と、目をキラキラさせている。絶世の美少女が。


「んー……」


 さらに、シーナも、もじもじと何か言いたげに、少年を見上げるようにしていた。


「……シーナも欲しいの? 奴隷」


「い、いえ、私ではなく、はは…… メイドさんが、一人調達して欲しいって」


「あいつもか……っ!」


 すげえ軽いノリでオラクル使いやがって。コンビニ感覚でおつかい頼まれるシーナの身にもなれやっ!


「どうやら、満場一致のようね」


 満場?


「少年はスポンサーだから。ぱぱぁ~ おねーさん、奴隷が欲しいなぁ」


 早くも、見ていくが、買って帰るにすり替わっている。


「…………ちっ」


 とりあえず舌打ちだけはしておく。


「どうせ、お前らみたいなもんは、遅かれ早かれそういうこと言いだすと思ってたよ」


 そんなに欲しいというなら仕方ない。


「まあ、姫の財布だし、好きにしてくれ……」

「えっ!? いや、いいけど――ひも?」


「欲しがってんのお前らだけどな」

「あ、そっか」



「……店主はいるかしら」


 おねーさんは、ラフな格好のまま、店の中へと入っていく。


 いつもの貴人の振る舞いだ。

 ただ、今回は衣装やメイドさんというハッタリがない。


 こんな場所に身なりの良い姿で入るよりは自然なのだが、その分、演技力が試されるということでもある。


「……どのような御用で?」


 店のカウンターにいた男は、主人と思しき女を見定め、あまり下手に出過ぎない範囲で丁寧に応じる。


 女主人とその連れ、いずれも見目麗しく、一方は隠しているようだがエルフであると看破したようだ。


「……(良い目利きだな。エルフなんぞ商材にならないだろうに)」

 少年は感心する。


 さすがにエルフなんかが流通しているわけはないから、客を見定める目が肥えているということなのだろう。

 多種族国家故の気を使う部分なのかもしれない。


 とりあえず、白い肌のエルフを連れた貴人という、珍しい客という印象は与えられたようだ。


「奴隷を買いたい。若い女を2 幼い男を1 それから、やってもらいたい仕事があるので、店主かその裁量があるものと話がしたい」


 居丈高に用件だけを告げるおねーさん。


 その目に、誤魔化しが効かないと悟ったのか、男は名乗る。


「失礼いたしました。私がこの店の主、ロドルアルと申します。まずはカタログをご用意いたしますので――」


「いや、案内を一人付けて頂戴。実際にこの目で見て判断する」


「左様で…… では少しお待ちを」


 魔法を妨害ジャミングでもしてるのか、有線の通信でやり取りをすると、ほどなくして数名の従業員がやってくる。


 ざっくりと、営業担当、飼育担当、警備担当、といったところだろう。


 営業が交渉の矢面に立ち、商品の状態に関して深く掘り下げられた場合や触れて確かめたい等の要望に備えて飼育担当者も随伴。警備は、奴隷側への警戒、といった役割だろうと推察される。


 万が一にも不手際がないようにという配慮なのだろうか。


 手慣れている感はあるので、このテの客は、さほど珍しくないのかもしれない。


「すまないが、時間が惜しい。頼みたい仕事に関しては、そちらの少年に委細聞いておいて。別に断ってくれても構わないわ。手間を取らせる分、最低限の謝礼はするつもりよ」


 それだけだけ言うと、おねーさんは、商品のある隔離施設へと赴くのであった。


 ちょっと小躍りしながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る