7話-試験の結果
岩に埋まった冒険者を見る。腹の右半分は無くなっており、肉片であろう残骸が辺りに散らばっている。冒険者は全身から激しい出血し、肌の色が青みがかっている。
「ゼタちゃん!この人に血を垂らして!」
「え...?あ、分かった」
『殺す 瑠璃以外は全て殺す』
慌てて剣を出し、手を切る。
「ルレ、こんな感じ?」
「うん、ありがとう」
ルレちゃんかに感謝されると同時に詠唱が始まる。
『星に流れる血は刹那の血となる 君がいない世界なんていらない』
詠唱が終わるとルレちゃんから光の波が溢れ、周囲を包み込む。
「ルレ、これが回復魔法?」
「うん。これはゼタちゃんの血を使って体を治す魔法って書いてあったから使ってみたの」
優しい風が頬の撫で、冒険者の体が何事もなかったかのように元に戻る。
外から見た感じ助かったように見えるが...
「ルレ、この人の怪我は治ったの?」
「本に書いてある事が嘘じゃなかったら完治したと思う」
「良かった...」
ホッと胸を撫でおろすと後ろから複数人の足音がする。
恐らく回復魔法を使えるであろう人を2人連れて試験官が駆けつけてきた。
「怪我はどんな感じですか!」
「ルレが完治させました」
「......?」
「ルレが完治させました」
試験官が冒険者に回復魔法を使うように言った後、怪我は無いか全身を隈なく見ている。
「本当に完治してる...?念の為にギルド側で診ます。明日食後にギルドを訪ねてきて下さい。
「はい。お願いします」
「みなさーん!依頼はこれで終わりです!依頼完了の報告に行って下さい!合言葉は"スペルト"です!解散!」
試験官の声を皮切りに冒険者がぞろぞろと帰っていく。
どこにいたんだろう。
「私はこの方を宿まで送っていきます。この町は獣の闇でも人通りが激しいので気をつけて下さい。では」
行ってしまった。
「ルレ、宿に戻ろうか。今日はゆっくり休もう」
「うん」
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-食前-
「ゼ...、ゼタちゃーん」
ルレちゃんの声。そういえば部屋で意識がなくなったんだっけ。
「ゼタちゃーん。おはよー!昨日は倒れるように寝ちゃったけど大丈夫?
もう少し寝るー?」
「ルレ」
「んー?」
ルレちゃんの瞳が私の目を覗き込んでくる。
「私、人を...殺したのかな」
「そんなことはないよ。ギルドの人が診てくれてるもん」
「...」
「それに...希望の魔法も使ったから大丈夫だよ」
希望の魔法。
「そっか。ルレ、ありがとう」
「うん!お腹すいたでしょ?何か食べに行こ!」
「そうだね。マルトはロックカーンの肉が美味しいらしいからそれを食べに行こう」
「やったー!」
ルレちゃんが私に抱き着い...てる?
・
・
・
?
「ゼタちゃん?おーいゼタちゃーん。おーい」
「ル、レ。キガエ、デキナイ」
「あ、ごめんごめん。下で待ってるね!」
胸の高鳴りが収まらない。早く着替えよう。着替えよう、うん。
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-食後-
「受付さん、試験の事で来ました」
「ゼンタさんですね。合言葉は分かりますか?」
「スペルト」
「はい。では担当した試験官を呼んできますね」
試験官からどのような言葉が出るのだろうか。
「ルレ、手を握っててほしい」
「うん」
試験官が奥から出てくる。
「こんにちは」
「こんにちは。試験官さん」
どうか生きていますように。
「まず、貴方が吹き飛ばした冒険者についてお知らせしますね」
「はい」
「あの後ギルドでも診ましたが怪我は一切ありませんでした。むしろ以前より元気になったように見えます」
「そうですか。良かった...」
「そして次に試験ですが、合格です。冒険者の証を発行しますので発行官を訪ねてくださいね」
「分かりました。質問を2ついいですか」
「はい」
「試験で何を試したんですか?」
「1つめの試験では基礎的な戦闘能力と観察能力です。ガンティスは炎の息を吐くときはお腹が熱で柔らかくなるのですが、首を力尽くで斬ってしまったので戦闘能力は合格。観察能力の方は、まぁ攻撃前の隙を狙ったとして合格にしました」
「2つめの試験では集団戦の対処を試しました。試すまでもありませんでしたね。
貴方達の力であればこちらは全滅していたでしょう」
「そして3つめの試験では洞窟や遺跡で孤立してしまったときにどうするか試す予定だったのですが、何とかなりそうだと思ったので止めました」
「何とかですか?」
この試験官雑では?
「はい。何とかです。ルレさんはまだ色んな魔法を扱えるように見えましたし、貴方はその力で全てをねじ伏せるでしょう。ほら、何とかなりました」
「そう、ですか」
もしそうなったら何とかしよう。
「それで、2つめの質問は何でしょうか」
「ルレが治療した冒険者は」
「元気に仲間と開拓地に行きましたよ。治してくれてありがとう!と言ってましたね」
「そうですか」
「他に質問は?」
「いえ、ありがとうございました」
「では冒険の成功と我々の繁栄を祈っていますよ。それでは」
試験官が奥に戻っていった。
冒険者が元気になってよかった...
「ルレ、一緒にいてくれてありがとう」
「お礼を言われることなんてしてないよ。これからも一緒にいようね」
「うん、もちろん」
ルレちゃんがいなかったら私はここに来る勇気もなかったかもしれない。
ルレちゃんがいなかったらもう真っ直ぐ立てないかもしれない。
私は自分の弱さを実感した。
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