3話-旅(行)

-食前-


身動きが取れない。ルレちゃん、私をガッチリ掴んだまま眠り続けてるんだ。


「ルレ、起きて。起きてくれないと動けない」

「むーーー」


なんか可愛い鳴き声が返って来たけど起きてくれない。これでは水を汲みに行けない。よし、一発で起きる魔法の言葉を言っちゃおう。


「ルレ、私はルレの事大好きだよ」

「むーーー!!!」


あ、起きた。全身の拘束が解かれ自由になった。


「おはよう、ルレ。よく眠れた?」

「お、おは...ょぅ。ぐっすり眠れた...よ?」


なんだか初めて会った時を思い出す反応。いつもは「私も大好きー!」って返してくれるから少し寂しいな。


「ほ、ほらゼタちゃん井戸行こ。ね!」

「うん、光で満ちてきたしね」


桶を持って井戸へ向かう途中、ルレちゃんに聞かなければならないことがある。


「ねぇルレ」

「どうしたの?ゼタちゃん」

「昨日、私が死んだ後何があったの?」

「昨日、ね。ゼタちゃんが死んだ後にね、白い人が私の前に出てきたの」


白い人、影について教えてくれた怪しい白い人影の事かな。


「それで魔法を教えてくれたの。希望を生み出す?魔法だって」

「希望を生み出す?初めて聞いた魔法だね」

「ゼタちゃんも聞いたことがないの?この魔法のおかげでゼタちゃんが蘇ったん

 だよ」


白い人に教えてもらったって事は契約を交わしたのだろうか。

井戸に着いたので釣瓶を落としさらに質問をする。


「ねぇ、何か契約しなかった?魔法を教えてもらうときに」

「確か中央大陸にある学校?って場所に行けば良いって言われたよ」


私と契約の内容が違うみたい。でも私たちを中央大陸に向かわせたいのは共通している。学校...そこに影の元凶がいるのだろうか。そこにルレちゃんを向かわせようとするなんて、何を企んでいるんだろう。


「ルレ、学校に行くべきだよ」


あれ?


「やっぱりゼタちゃんを生き返らせてくれたし行くべきだよね」

「いや、行くべきだね。私も中央大陸でやる事がある。」


違う。危険な場所にルレちゃんを向かわせるわけがない。契約なんて無視して影の元凶が倒されるまで待つべきだ。


「そうなの?ゼタちゃんも凄そうな剣持ってたし、やっぱり契約したの?」

「うん。影の元凶を倒せって言われたよ」


口が勝手に動く。私の声でルレちゃんに嘘を言うな。

身体が勝手に動く。桶に水を汲み入れ、顔を洗う。一体どうなっているの?


「ルレ、一緒に行こう。できれば今日か明日に出発したい」

「え?結構急だね。お母さん許してくれるかな...」

「大丈夫だよ。ルレが寝ている間に話は通しておいたから」

「うーん、ゼタちゃんと旅行って考えたら楽しそう!じゃあ行こっか!」


ルレちゃんが眩い笑顔を私に向ける。が、ルレちゃんと喋っているのは私ではない。


「じゃあ今日行こ!旅行の準備してくる!」

「うん。じゃあ食後に井戸で集合ね」


ルレちゃんが家に戻る。私の口と身体は自由になっていた。


『ごめんね~。時間が押してるんだ~』


井戸の底、木々のざわめき、風の音に混じって白いヤツの声が聞こえた。

どうやら中央大陸に行くのは決定したみたいだ。随分と強引に行かせようとしてくる。何が待ち受けていようとルレちゃんは守り通さなければ。


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-食後-


「ゼタちゃーん!おまたせー!」


希望の天使が走ってきた。


「ルレ、よく許しが出たね」

「うん!ここら辺は安全だし人が良く通る道を使うから安全だろうって!」


すんなり許可が出てる。ルレはまだ2の鐘なのに。

大方白いヤツが何かしたのだろう。

まぁ、確かに危険は無いし何事もなく中央大陸まで行けるだろう。


「よし、じゃあ行こうか。ルレ」

「うん!」

「まずはマルトで冒険者登録をしよう」

「りょうかーい!...え?冒険者になるの?」


「うん。冒険者になると宿のお金とか安くなるからね。でも危険なクエストは受けな 

いよ、危ないからね」

「分かった!それじゃあ出発!」


私達は旅を始めた。

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