原点0話-死
「ルレ、起きて」
なるべく大きな声をあげないように意識して呼びかける。全力でルレちゃんの体を揺する。ゆさゆさ。頬を叩く。ペチペチ。
「うーん...」
あ、起きそう。
ペチペチペチペチペチペチペチ。これでどうだ、頬を沢山ペチペチしたぞ。
「
「おはよう。残念だけどまだ獣の闇。ちょっとお願いがあるんだ」
「んー」
ルレちゃんが眠そうに瞼を擦る。
「お願いって言うのはこの魔法のスクロールを持っててほしいんだ」
そう言って複数のスクロールを渡す。
全部冒険者さんと仲良くなって譲り受けたものだ。
「ほえ?どういう事?」
「村に魔物が出て憲兵さんが戦っているんだ。私も手伝ってくるよ」
「気を付けてね?ここら辺の魔物だから大丈夫だよね?」
「もちろん。私は弱ったやつに止めを刺すだけだから」
私の事信じてくれるし心配もしてくれる。なんていい子なんだルレちゃんは。
「それらのスクロールにはバーン、ウンディリア、ガスタが入ってる」
「なるほどね?何とかと何とかと何とかね!」
「うん。まぁ、スクロールを広げたら魔法が出るからね。もしものことがあったらそのスクロールを相手に向けるんだよ」
「任せて!危なかったら逃げるんだよ!」
「うん。それじゃ、行ってくる」
ルレちゃん成分もバッチリ、頑張ろう!
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倉庫から鉈を取って悲鳴がした方へ向かう。見つけた。
眼が不気味に赤く光って姿が闇に溶け込んでいる。食後に見た黒い魔物だ。
心臓の音がうるさい。魔物はまだこちらに気づいていない。
大丈夫。落ちていて、音を立てないように静かに...。
少しずつ、少しずつ近づいて...。
よし、あともう少し近づけば奇襲出来る距離だ。何かを千切る音が魔物の方から聞こえる。なんだ?よく見えない。もう少し近づけば魔物の大きさとか分かるかもしれない。最初の一撃が全て、浅いと確実に死ぬ...。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくr
ドサッ
「...」
何かに引っかかった。何かはどうでもいい。赤い瞳が私を見た。
アレは絶対に私を見ている。どうしたら死なない?せめて憲兵さんが来るまでは持ちこたえないと。魔物の大きさが分からない。敵の間合いが分からない。
赤い瞳がこちらに近づく。仕方ない、神に祈りながら全力で一撃を当てて逃げる。
これしか思いつかない。やられる前に一撃入れる!
「スゥーーー」
大きく息を吸い込んで
「ダrrrrラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
よし、肉を切る感触!一撃入れた!そして逃げる!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
魔物の咆哮。赤い瞳が先ほどより細く見える。痛がっているのだろうか。
鉈を引き抜く。村の出入り口付近に篝火があったはず。とりあえずそこまでいこう。
最悪森まで誘導して隠れるしかない。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!」
自分以外の足音。恐らく私を追ってきている。
「ハァ...ハァ...」
足音が近づいてきている。足速すぎ。遠くに篝火が見える。よし、憲兵さんと力を合わせれば何とかなるかもしれない。いつも篝火の近くで暇そうにしているの知っているんだからね。
「ガアアアアアアア!!!」
まったく、うるさい魔物だ。それにしても、憲兵さんなかなか 来ないな。
ブンッ
突如、耳元に聞こえる風切り音。何の音だろう。
ズキッ
[ウ、ああああああああアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
左腕が痛い。痛い痛いいたいいたいイタイイタイ痛い。痛い走れない無理無理無理イタイ死ぬ死ぬ死ぬ痛い。
バタッ
「ハー、ハー、ハー」
痛い。鉈が私に添い寝してくれている。ルレちゃんなら良かったのに。
風切り音の後に左腕が痛くなったって事は、噛み切られたのか切られたのか。
どっちにしろ死が私に追いついたという事か。左腕が無くなっている。
視界が霞んできた。痛みは引いてきたがこれではまともに動けない。
足を掴まれた。鉈が遠ざかる。代わりに目に入ってきたのは赤い瞳。
魔物が遠くにある篝火の薄明かりに照らされてようやく輪郭が分かってきた。
ぼんやりとだが昼間見たものとは違うのが分かる。これは...これはなんだろう。
食後に見た魔物とは違う姿のように思える。
赤い瞳をした魔物の下瞼が動き目が細くなる。笑っているのだろうか。今から私を喰うのだろう。お前の瞳は絶対に忘れない。必ずその赤い瞳を持つ魔物を根絶やしにしてやる。例え死んだとしても、私が必ずお前たちを殺す。ルレちゃんが安心して生きていけるように...
ゴリッ
ブチッ
ルレちゃんに手は出させないから。
私は死んだ。
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