虚数1話-異変

怪物が迫ってくる。扉を開けて外へ駆け出す。

「グガアアアアアアア!!」

すぐ後ろで凄まじい音がした。扉が粉々になって散らばっている。

魔物の魔法だろうか、それともあの大きな腕だろうか。


腰が抜け、しりもちをついてしまう。私にはあの魔物は早すぎる。

誰かが駆け寄って私と魔物の間に割って入る。憲兵さんと冒険者さんが何人かいる。

憲兵さんが何か喋っている。恐怖で思考がまとまらない。まずは落ち着かないと。


まずは深呼吸。そして胸に手を当て心臓の音を聞く。

「ゼンタ!しっかりしろ!安全な所まで引くぞ!」

憲兵さんの声がようやく聞こえてきた。憲兵さんに手を引かれ少し離れた酒場まで行く。憲兵さんが何か言った後、私の頭を撫でて外へ出て行った。


店主と思わしき人物に水を出される。店主が何か喋っている。適当に聞き流して返事をする。ようやくゆっくりした時間ができた。ふと一つの疑問が出てくる。


なぜ魔物が町の中にいたのか。


この町はそこそこの大きさがある。憲兵さんや冒険者さんの目があるのは確か。あんな大きな魔物を見逃すなんてありえない。外はまだ暗くもない。

考えられる可能性はここら辺には生息していない魔物とかだけど...


あれこれ考えていると、怪我をした憲兵さんが駆け込んでくる。

「ゼンタ、おじさん達はこれから忙しくなるから家に帰んな。店主のおっちゃん!こいつは礼だ!」

そう言った後、憲兵さんが小さな袋を机に置いているのが見えた。


憲兵さんにお礼を言い、言われた通りに家に帰る。

憲兵さんの怪我は大きくなった。多分、大丈夫だろう。

それよりルレちゃんが心配だ。もしあの魔物が現れたらどんな手を使っても守り通して見せる。


「はぁ...はぁ...はぁ...」

村まで  走り続けた  から  疲れた

ルレ ちゃん 成分...

呼吸 と 汗 を 

「はぁ...スゥゥ--、はぁ...スゥゥ--、ふぅ」

汗を拭い、呼吸落ち着かせてルレちゃん家の扉をノックする。


トントントンッ


「はぁーい」


ルレちゃんの声!良かった魔物に襲われてなかった。


ガチャッ


扉が開いた。ルレちゃんの元気な姿が見られた。

「あっ、ゼタちゃん!どうだった?剣の稽古」

「凄く難しかった。ねぇ、ルレ」

「なぁに?」

「今日も私の家で一緒に寝ない?」

「うん!いいよ!お母さんに言ってくるね!」

「私もお母さんに話しておくよ。それじゃ、夜ね」

「稽古で何やったか聞かせ/バタンッ


ルレちゃんが言い切る前にルレちゃんの手により扉が閉まる。ルレちゃん成分を体一杯に補充しながらあの魔物の事を考えよう。それに明日は憲兵さんに魔物の事を聞いて...。

眠い。家に帰って寝よう。


家に戻って親に稽古でやったことを話す。そしてルレちゃんが家で寝る事を話して寝床へ向かう。


メェタンの毛を使ったフカフカなベッドに飛び込む。

はぁ~ふかふか~。考えるのはルレちゃん成分を沢山取り込んでからにしよう。


-獣の闇-


「...ちゃん、...ちゃん」


ハッ、天使の声で目が覚める。窓を背にしてルレちゃんが立っているのが分かる。


「ゼタちゃーん。おーい」

「ルレ、待ってたよ」

「もー、ゼタちゃんすやっすやなんだからー」

「ごめんごめん。ほら、おいで」


両手を広げる。ルレちゃんが私に飛び込んでくる。

ルレちゃんの頭を撫でる。わしゃわしゃ。

はぁぁ~癒される~。ルレちゃん成分補充される~。食後に考えていたことがどうでもよくなる~。ルレちゃんの重みが感じられる~。


「ねぇゼタちゃん、稽古どんな感じだった?」

「良い匂いだったよ」

「えっ?どんな稽古だったの?」


間違えた。ルレちゃんの髪の匂いの話をしているわけではない。


「土と草を全身で感じられた。つまりは憲兵さんと1対1で戦ったんだよ。疲れて倒れるくらい戦った」

「ほえー、稽古ってそんなに大変なんだね」

「うん、でもすごく楽しいし勉強になった」


なんとか誤魔化せた。倒れる事はなかったが沢山戦ったのは本当。


「あとは難しい話がほとんどだった。剣は奥が深い」

「ゼタちゃんなら大丈夫だね!」

「なんで?」

「だって私が1の鐘の時憲兵さんになるって約束してくれたもん」

「ふふっ、任せて」


ルレちゃんはまぶしい笑顔を私に向けてくれる。私の事を信じてくれるルレちゃんの為にも頑張らないといけないな。あの黒い魔物にも勝てるようにならないと。


「ス-...ス-...」

今日食べたご飯の事を話そうとしたらルレちゃんは眠っていた。

なんて可愛い寝顔なんだ。ルレちゃん成分を補充している間に今日の出来事をまとめておかなくては。


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ルレちゃんを抱きしめながら黒い魔物について考えていると悲鳴が聞こえた。


私は嫌な予感を感じていた。




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