神との契約ー奪い去る剣

フリドール

虚数2話-エンカウント

 -食前-


 お腹に響くような衝撃波。私は慌てて飛び起きる。周りを見渡すが変化はなし。窓を開けるが変わったところはない...気がする。先ほどの衝撃波は気のせいだろうか。眠気が吹き飛んだ。


 少し眠いが井戸から水を汲みに行く。

憲兵さんに挨拶をする。少し眠そうだ。

憲兵さんの様子から察するに衝撃波は気のせいなのだろう。こんな小さな村に何か起ったらすぐ分かるはずだし。


井戸についた。今日は体が少し重いし食後までの水を汲んで家に戻ろう。


 釣瓶を下ろし大きな欠伸をする。

「おはよー!ゼタちゃーん!」

まだ薄暗い空の中ルレちゃんが走ってきた。

「おはよう、ルレ。起きるの早いね」

「うん、さっき凄い感覚がお腹にきたから起きちゃった!」

ルレちゃんが抱き着いてくる。ふふ、甘えん坊さんめ。


 釣瓶から水を汲み上げ顔を洗う。口をゆすぐ。ルレちゃんの頭を撫でる。

はぁ~癒される。ほっぺを突っついたり伸ばしてみたりする。

へんはん、ほうはらへんのへーほへほゼタちゃん、今日から剣の稽古でしょ

「うん、立派な憲兵になってルレを守るから任せて」

はんはっへね!頑張ってね!

「うん、それじゃ」


 ルレちゃん成分を沢山補充してその場を後にする。衝撃波、気のせいじゃなかったな。


 空が青くなるまで農具を振り回す。2の鐘から毎日親の手伝いをしていたおかげか農具が軽く感じられるようになった。あぁ、今日から動物の世話も作物の世話もしなくていいんだなぁ...。


 少し早いが町に向かう。冒険者さんに魔物の事を教えてもらうのと、作物を売りに行く目的以外で町に行くのは初めてだ。少し町をぶらぶら歩く暇はありそうだ。

酒場が沢山。胡散臭い雰囲気の店。多種多様な武具を売っているであろう店。暇を潰すのは容易だった。


 空が青くなり雲がはっきりと見える。そろそろ冒険者ギルド裏手の広間に行かなければ。木剣と水袋を持ち広間へ向かう。憲兵さんと冒険者さんが楽しそうに話している。リザードマンについて教えてくれた冒険者だ。今日はどんな魔物の情報を持ってきてくれたのだろう。稽古が終わったら聞いてみよう。


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 憲兵さんが剣の稽古をつけてくれた。憲兵さんと1対1で打ち合うのかと思ったが姿勢や間合いについての基礎についての勉強だった。

少し残念だがルレを守る事に繋がるので真剣に聞かなければならなかった。


 憲兵さんのお腹が減ったらしいので休憩になった。ご飯を食べたら間合いを意識しながら憲兵さんと打ち合う事になった。楽しみだ。

ご飯は冒険者さんと食べることにした。冒険者さんが奢ってくれるらしいのでモンスターの肉をつかったスープとパンを頼んだ。


 このスープの存在はオークについて教えてくれた冒険者がやたら褒めていたから気になっていた。肉を口に入れる。噛み応えはあるが途中から溶けてなくなる。独特な香辛料の香りと味だ。美味しい。料理に何が使われているか分からないから後で店の人に聞いてみよう。再現出来たらルレちゃんにも食べてもらおう。


 ご飯を食べている間、冒険者さんに色々聞いてみた。海にはシャークナーと呼ばれる頭が3つもある魚のような魔物がいること。ゼリーズという魔法しか効かないぷるぷるした魔物がいること。私が食べてるスープが高いこと。このスープの肉はシャントクという鳥の魔物が使われていること。シャントクはここら辺では見られないということ。スープが本当に高いということ。憶えておかなければ。


 -食後-


 疲れた。間合いを意識しながら戦うのって難しいな。憲兵さんはニコニコしているし、やはり今の私ではまだまだ弱いという事だろう。いずれは憲兵さんに勝てるようにならないといけないな。憲兵さんと冒険者さんにお礼と別れを言い、その場を後にする。家に帰る前にルレちゃん成分補充しよう。


 冒険者ギルドを離れて間もなく悲鳴が聞こえた。すぐ近くだ。盗賊か酔っ払いの類だろうか。間合いの勉強もしたし木剣も軽々振れる。危険だが経験を積むついでに時間稼ぎをしよう。私はルレちゃんを守るために憲兵になるのだから早く強くならなければ。


 憲兵か冒険者を呼んでくるのと避難の呼びかけを近くにいた人にお願いをして、悲鳴が聞こえた場所に向かう。


 悲鳴は恐らくこの家の中からだ。木剣を構え突入する。部屋の奥から何かが動いているのが分かる。暗くてあまりよく分からない。

「そこの人、ここに冒険者と憲兵が駆けつけてくるよ。貴方、凄く怪しいから両手を上げて後ろを向いたまま姿を見せて。」

ドキドキする。


「グゥゥゥゥゥ」

なんだ今の音。お腹でも鳴っているのか。凄い音だけど。

「グゥゥゥゥゥ」

凄いお腹の音を出す黒い影が徐々に姿を現す。


「嘘でしょ...」

見たことない魔物がゆっくり出てきた。リザードマン?でも手が大きすぎる。

それにリザードマンの鳴き声は「グギュルルゥ」と聞いている。


「グウウウウゥゥゥ」

お腹の音じゃなかった。どう考えても鳴き声。全身真っ黒に赤い瞳。この魔物については冒険者さんに聞いてみる必要がある。

「グガァァァァ!!」


 襲い掛かってきた。今の私が出来ることは何か。

冒険者ギルドにいた憲兵さんと冒険者さんが駆けつけてきている事を祈る事。

そして、全力で逃げること。


 私は全力で逃げ出した。






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