5

 瑞貴ちゃんが帰った後で、ふと、思い出したことがある。


 "これは本件とは直接関係ないのですが、よろしければご参考までに"


 そう言って、松田さんが置いていった資料。(旧姓)島田 明日香の行動記録だ。


 正直、彼女とはもう関わりたくない。これまでの彼女との交渉も、全て弁護士に任せていた。だからこれまで中身を見ずにいたのだが、これを置いていった時の松田さんの表情が、どことなく含みを感じさせるようなものだったのが、私も少し気になっていた。それに、昨日の良祐さんの言葉にも、一つ腑に落ちないところがあったのだ。


 そして今、私はとうとうそれを紐解いた。


 やはり。


 彼女も別な男と二股をかけていたのだ。それも良祐さんと知り合う前からの付き合いだった。もちろん肉体関係もアリで。良祐さんがそれに気づいている節はないようだ。そして、その付き合いが切れたという記述も、ない。


 ……。


 類は友を呼ぶ、とはこのことか。全くもって、お似合いのカップルだこと。


 結婚後何年経っても子供ができず、「元」姑にも石女うまずめ呼ばわりされたので、私は産婦人科で不妊検査をしたことがある。その時私には、確かに若干妊娠しにくい傾向はあるものの治療が必要なほどではなく、十分自然妊娠できる、という診断が下った。良祐さんにも検査に行くように何度も勧めたのだが、その都度彼は「忙しいから」と言って拒んでいた。


 不妊なのは私じゃなく、良祐さんの方なのでは? 結婚していた当時、私は幾度となくそう思ったものだ。


 そして。


 今の私の顔には、さぞかし嫌らしい笑みが張り付いていることだろう。鏡を見なくてもわかる。何だかんだ言っても、結局これが私の本質なのだ。自分の醜さにほとほと嫌気が差す。だけどどうにもできない。


 私は心の中で問いかける。


 ねえ、良祐さん。


 あなたは父親になれて喜んでるみたいだけど……


 あなたの今の奥さんのお腹にいる赤ちゃん……


 本当に、あなたの子供なのかしらね……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Life after Divorce Phantom Cat @pxl12160

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説