6月22日

《曇り》


 叫びすぎたからか、少年の声が枯れている。喉に傷ができたみたいで、叫んでは咳き込んで、血混じりの唾液を吐いていた。困り果てて、結局船医のリヒトを頼ってしまった。彼は呆れた顔で大きなため息をつき、喉の薬をくれた。

 リヒトは「安静にしないと意味ないよ」と言い、ぼくの目元を撫でた。酷い顔をしているのだと思う。夜は彼に付き合って寝れず、かといって昼間に惰眠を貪るわけにもいかず、適当に顔を洗っただけだったから。眉を寄せるリヒトは何か言いたげだったけれど、薄い唇は開かれなかった。

 情けない顔をしているのが気に食わなかったのかもしれない。疲れているのを全面に出している船長なんてみっともないものね。明日から気をつける。


 彼は「おかーさん」とよく口にする。自分を捨てた母にまだ縋っているのか。両親の顔を覚えてもいないぼくには、よくわからない感情だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る