6月15日

《快晴》


 名前のない島というのは、結構あるらしい。そのうちの一つがシーウルフの集会によく使われているのだという。

 参加していいのは船長と副船長だけ、と聞いていたので船は沖に停め、サンディと小舟に乗り換えて島に降り立った。不思議なほど砂がさらさらで、全く肌につかない。暑くも寒くもない、変わった気温だ。これ、もしかしたら幻覚? サンディに尋ねても、彼は「おれにはよくわからん」と首を振るだけ。

 無人島には不釣り合いの教会によく似た小綺麗な建物。サンディは迷いなく磨かれた廊下を歩き、左側のドアを開けた。中には大きな机とそれを取り囲むように置かれた10脚の椅子。そのうちの1つに、ひょろりとした細長い体躯の男が座っていた。後ろに控えた青年は副船長だろうか。


 傷みきった髪は見栄えの悪いシルバー。毛先は濃い緑。死人みたいな青白い肌の男は「やあ」と軽快に片手を上げた。「もしかしてジョンブリアンの?」と問われ、頷いた後に名前を名乗った。そうすると、彼は窓が揺れるほど高い声で笑った。


「これはこれは! なんて愛らしい! よろしくねぇ、小鳥ちゃん」


 ぼくはその呼び方が大嫌いなので、彼 ――緑の旗を掲げるシーウルフ「オリーブ」のアベル船長とは仲良く出来そうにない。

 無視を決め込んだものの、ぼくら以外には誰も来なかった。アベルは「いっつもワタシたちだけだから今日は賑やかで楽しいねぇ」と、日が暮れ始めた頃に言った。それをもっと早く言え。

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