6月13日

《晴れ 空が高い》


 空のスケッチを持って海図室に行った。髪も服装も真っ黒な航海士ナハトが、たった一つの椅子に腰掛けて日誌を書いていた。少し覗くと、天気のことで埋まっていた。すぐに閉じられてしまったけれど、彼は文句を言うこともなかった。真面目で、優しい人だと思う。

 天気のことは彼に聞くのが1番だ。ナハトは口数が少なく声も小さいけれど、空や風の話をするときは歌うように話すのだ。ちょっと掠れ気味の低い声が、ぼくは結構好きだ。

 スケッチブックを開こうとすると、ナハトに止められた。彼は立ち上がり、本棚から1冊の本を取り出した。天気の本だ。初心者向けの。「整理してたら見つけたから、あげる」と渡されたから何ページか捲ってみた。かなりわかりやすそうだ。

 まるで元から持っていたみたいな言い方だったけれど、どう見ても真新しいし刷られた日付は先月だ。ぼくのために買ってくれたんだろう。

 ぼくと話す時間、ナハトは嫌だったのかもしれない。彼の声を聞く口実がなくなって残念だ。

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