6月10日

《曇りのち雨 空気ぬめってる》


 日照りは少ないが、少し動くだけで汗をかく。雨が降る前で湿気が多いのだと航海士のナハトに教えてもらった。空を見上げると、いかにも雨を降らしそうな黒く大きな雲が泳いでいた。


 昼前、甲板の隅で鍛錬していると視線を感じた。猫のような金の目でこちらを見ていたのは、双剣使いのアンリ。何か用事かと問うが、彼は真っ直ぐぼくを見つめながら「続けて」と言った。仕方なく仮想相手とスパーリングもどきをした。傍から見たらただ一人で適当に動いてるだけにしか見えないと思うけれど。

 アンリは船の縁にあぐらをかき、両手で頬杖をついて瞬きせずにぼくの動きを見ていた。暇なら相手になってくれればいいのに。思わずそう言ってしまった。アンリはゆっくり瞬いた後「ラ・エルが言ってた。早くて見えないって」と言って縁から下りた。答えになっていない。じっとりかいた汗を拭っていると、背を向けたアンリが言葉を続けた。「ヨンが言ってた。もうすぐご飯」と。用事あるじゃん。

 お昼ご飯は明太フランスとペペロンチーノだった。美味しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る