6月6日

《雨》


 どうしても眠れない夜がある。そういう時は甲板に出て夜風に当たりたいんだけど、以前そうしたら不寝番だった双剣使いのアンリに追い返された。気が散ってしまうんだって。それに今夜は酷い雨が降っていて、どちらにせよ外には出られない。

 ぼくは、不寝番を任されていない。一夜の命を預けるのさえも忌避されている。

 信頼を得るのって、思っていたよりもずっとずっと難しい。


 もっと強くなればいいんじゃないかと思って、昼間に鍛錬の時間を増やした。ぼくの武器である縄鏢は、普通の鏢より細くて長い。針より大きくて杭より小さな形状をしている。扱いにくいが、急所を狙いやすくてぼくは気に入っている。柔軟さと速さ、それに腕力が必要だ。

 筋トレをしていたら戦闘員のスタンに鼻で笑われた。「折れそうじゃん」だって。大剣を軽々振り回す筋肉ダルマから見たら、ぼくの腕なんて枝どころか茎だろうね。いつかスタンに腕相撲で勝つことを心に決めた。


 雨がうるさい。まだ眠れなさそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る