5月31日

《雨》


 気づいたことがある。気づきたくはなかっけれど。


 誰も、ぼくの名前を呼んでくれない。


 「きみ」だったり「お前」だったり、酷いと「おい」だ。「船長」と呼ばれないのは仕方がないにしても、名前さえ呼んでくれないのは少し、なんというか、……しんどい、のかもしれない。

 初めての感情だ。胸の奥と、喉の奥がぎゅうと痛む感じ。このまま息が止まってしまうのかと錯覚するような痛みに、身体が内側から裂けそう。こんな気持ち知りたくなかったな。

 みんな、ぼくの名前、忘れてしまったのかな。


 ぼくはカナリア。ジョンブリアンを率いる船長として、この広い海で知らない人がいないぐらい、名を轟かせよう。そうなればきっと、みんなも呼んでくれるだろうから。

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