5月24日

《雨 風で船が揺れる》


 「船を降りる」そう言われて、なんて返すのが正解なんだろう。


 みんな、パロット船長に憧れて、彼になら全てを託せると信じてジョンブリアンに入ったわけで、船長が彼でないなら当然ここにいる理由はなくなるわけで……そんなのわかっているけれど、受け入れ難い。

 肯くことしかできない自分が情けない。でも彼らを繋ぎ止める言葉が全く思い浮かばない。

 このまま、ひとりになったらどうしよう。パロット船長の期待に応えられないまま、ジョンブリアンが沈んでしまう。それが怖くて、誰にも会いたくないから見張り台に登った。帆を閉じて雨脚が弱まるのを待っているこの時間なら、甲板に誰もいない。


 ぼくが海賊になったのはたったの3週間前。なのに、海の匂いと波の揺れが心地好い。母に抱かれるって、こんな気持ちなのかな。ここはぼくの居場所だと、改めて強く思った。

 挫けている暇はない。雨に濡れて、頭が随分と冷えた。もし、ひとりになったとしても、一から始めればいいだけだ。きっと、パロット船長ならそうする。あの人は戦争で仲間を失っても、進み続けたんだ。ぼくも、負けていられない。

 立ち上がると、ちょうど下から呼ばれた。びちょびちょになった金髪を後ろに撫で付けたサンディだった。彼の左手の薬指にも、指輪の形の日焼けが、くっきりと残っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る