5月23日

《快晴》


 パロット船長を弔った。

 ベッドの下から見つかった小舟は、水葬に使った。多分、そうして欲しくて持っていたものだろうから。

 小舟にピッタリと収まった船長は、生きていた頃より小さく見えた。彼が気に入っていたコートを着せ、胸元で組んだ手の上に三角帽子を。愛用していた黄色いバンダナは、ぼくが貰うことにした。言ったら取られるかもしれないから、こっそりと。

 黄泉の道を迷わないよう願いを込めて、船で一番大きなランタンを道標に添えた。花なんて洒落たものはないから、随分と淋しい。そう思っていると、航海士が指輪を投げ入れた。彼に続いて、あと17人が指輪を投げた。

 木と金属がぶつかる味気ない音に、血の気が引いた。


 シーウルフが交わすリードエンゲージには、「この心臓はあなたのもの」という意味がある。その証に、船長は揃いのエンゲージリングを贈る。

 時には生命よりも重くなる指輪を手放す。その意味がわからないほど、ぼくは馬鹿じゃない。

 彼らは船を、降りるつもりだ。

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