5月19日

《曇り 風冷たい》


 今日のご飯、どれも味が濃かった。泣きすぎたみんなを気遣ってなのか、コックの鼻が詰まって味がわからなかったのか。それでも美味しいから尊敬する。

 いつもの活気はどこにもない。すんすん、と鼻をすする音ばかりが大きく響く。みんなぼくの何倍も目を腫らしている。擦りすぎた鼻も赤い。

 気の利いた言葉をかけられなくて歯痒い。なにせぼくは、みんなの名前が未だにあやふやだ。なのに別人みたいに顔がべちゃべちゃに腫れているもんだからわかるわけがない。


 針路を決めようにも誰もぼくと顔を合わせてくれないので、ちょうど見かけた島に暫く滞在することにした。けれど今日はみんな船で過ごすみたいだ。パロット船長から離れたくないのかもしれない。

 彼が眠る部屋には、冷凍庫と同じ魔術をかけてある。いずれは自然に還さなければならない。みんなわかっているだろうけど、誰ひとりその話題を出さない。切り出す役目は、ぼくが負うべきだ。

 明日はコックを誘って食材を買いに行けたらいいな。その時に彼の名前を教えてもらおうと思う。

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