カナリア船長の航海日誌

水鳥彩花

継承

5月18日

《晴れ 風もなく穏やか》


 パロット船長が死んだ。

 雲ひとつない空を、これほど憎んだことはない。燦々と輝く太陽が、目に沁みた。涙が溢れてくるのは、あの眩しさに焼かれたせいだ。涙が零れてしまうのは、光から逃れたくて下を向いてしまうせいだ。雨であったなら、ぼくらの涙をごまかしてくれただろうに。天気は空気を読んでくれない。


 さて、パロット船長の遺言に基づき、次の船長が決まった。ぼく、カナリアである。

 ぼくを選ぶとは、船長は思考まで病魔に侵されていたに違いない。しかし、彼は死に間際ぼくの手を取り、真っ直ぐ目を合わせて「カナリア」と呼んだ。誰かと間違えた訳ではなさそうだった。これは船員みなが見ている。ぼくよりみんなのほうが驚いていた。なにせぼくがジョンブリアンに拾われたのは、たったの3週間前だから。

 パロット船長が何を思ってぼくを選んだのか、いまはまだわからない。けれど恩人に託されたからには、乗りこなしてみせよう。

 みんなも、船も、そしてこの日誌も、今後はぼくのものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る