またこのオチですか。
「まず、世界的な競馬の集中開催は六国九開催行われているよ」
俺はホワイトボードの左にBCC・ドバイミーティング・凱旋門賞
「先に五か国だけ説明するよ。準備はいいかな?」
「よろしくお願いします」
「うん。それではさっきから名前が出ているブリーダーズカップ。一九八四年に創設された集中開催の始祖、このあと解説する集中開催のお手本だからブリーダーズカップを抑えておけばだいたいの集中開催の仕組みがわかるよ」
ノートに丁寧な文字で書き留めていく石田君を眺めながら解説を続ける。
「ブリーダーズカップは設立当初は一日G1七開催だったが、現在では二日のG1十四開催となっている。分けた理由はいくつもあるんだけど、それはまぁ割愛するよ。では質問、一日目と二日目での明確なレース差異はなんだと思う?」
「……普通に考えれば馬齢ですか?」
「ハイ正解。一日目にはブリーダーズカップ・ジュベナイル競走、端的に言うと二歳馬限定の競走が行われるよ。二歳馬競走はターフスプリント・フィリーズ・フィリーズターフ・ジュベナイル・ジュベナイルターフの五競走あって、ダートが二百万ドル、芝が百万ドルの賞金になっている。そして、古馬とは違いターフスプリント以外は混合競走ではないよ」
「それは何故ですか?」
「シンプルに牡馬が有利すぎるからだよ。二歳なんて馬体ができあがってないからね。これは石田君がジョッキーになったときにも気をつけることだよ。クラシック馬や古馬に乗るつもりで無理をさせると故障に繋がる。特に音花ちゃんほむらちゃんを含む君たちはシミュレーターでの経験があるから実馬とのギャップに悩むかもしれない」
「肝に銘じます」
まぁ、無茶な乗り方で故障なんてさせたら厩舎の調教師にボコボコにされるけどね。釘だけは差しとかないと。
「話を戻すよ。二日目は三歳以上の競走がメインだ。ダート芝、短中長様々な競走が行われる。その中でも最も人気があるのがサードも出走するブリーダーズカップクラシック、賞金もずば抜けて高い」
「それだけ人気が高いってことですか」
「例えるなら日本の有馬みたいなもんだからね」
もっとも、内情的にはジャパンカップのほうが近いが。
続けてドバイミーティングの話をしようとすると、俺たちのいる会議室の扉がノックされた。コンコンではなくガンガンに近い音、ほむらちゃんだ。
どうぞと声をかけると、遠慮なく思った通りにほむらちゃんが入室してきた。
「おかえり」
「ただいまです。お弁当貰ってきたんで食べましょ!」
「ちょうどいいね。今日の勉強会はここまでにしようか石田君」
「はい、わかりました」
「なに勉強してたのよ~」
ほむらちゃんはノートを片付けだす石田君の背中にのしかかり、彼の丸刈りの頭をペシペシと叩いて絡む。石田君は心底鬱陶しそうな表情で彼女を無視して立ち上がって言う。
「さぁ? 期末の勉強じゃねぇの」
「あぁ……もうそんな時期なんだね。ほむらちゃんは今回の試験は大丈夫……」
ホワイトボードを消し終えた俺が振り返ると、すでにほむらちゃんは会議室から消え去っていた。
「……今回の期末、大丈夫なのかい?」
「担任からは居残り補習をしろと言われてますけど、それから逃げて馬術部に行ってますね」
……これはほむらちゃんとよくお話をしないといけないようだ。
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