ネズミ捕りと合落
「キャットワン、ゴー!」
うにゃん、と威勢よく牧場飼育の猫が駆け出して逃げ出そうとした野ネズミを一撃で狩り獲る。
「本当に今年はネズミが多いですね」
「ニャーニャー警邏隊が見回りしてくれてるんだけどねぇ。濃厚飼料の味に、文字通り味を占めたネズミたちが滅茶苦茶侵入してくるから切りがないよ」
「だからといって、むやみやたらに社長が褒めるせいで牧場外の猫たちが事務所の前にネズミを並べてくるのは良しとできませんが」
「大塚さんもそれを見てキャーっと言っちゃったわけだね」
なんつって、ゲヘヘ。いいこと言ったとにやけ顔の俺に大塚さんの風を切る蹴撃が俺のケツを襲う!
「いったぁい!」
「お、いい蹴りだね。でもあんま痛くないな。俺ってば大塚さんにケツを蹴られすぎて皮が厚くなったんだねぇ」
「ちょっと、鋼鉄より硬いってどういうことですか!」
「逆になんで鋼鉄を蹴ったときの硬さを知っているんだ大塚さん……」
つーか、事務所の外れにボコボコにされて放置されてる鉄板ってそういうこと!? あれ牧場で使った部材の廃棄だと思ってたんだけど! あ、キャットスリーがネズミをもう一匹持ってきた。
「それにしてもネズミ多くないですか? 例年の数倍はいますよね」
「あぁ、それはね」
ネズミの死骸をバケツに投げ捨てながら大塚さんに説明をする。去年までは妻橋さんが丁寧に飼料などを管理して、ネズミが好む環境を徹底的に潰していたためにそこまで問題になっていなかったこと、今年は妻橋さんがいないことに加えて育成馬や当歳馬が増えているために厩務員などの人手リソースが足りてはいるが万全ではないことを伝えた。
「だから来年から厩務員募集の幅を広げようとしてらっしゃるんですね」
「音花ちゃんとほむらちゃんがいなくなっちゃうからね~」
「ほむらちゃんは微妙なラインですね……」
不吉なこと言うなって……。
「実際のところ、二次試験に入れば合格しそうなんですか?」
「今年は百五十人の受験者がいて、多分二次試験に行くのは三十人前後かな。そこからだいたい十人前後になる。けど、あの三人の腕なら二次まで行けば合格は間違いないよ」
他の子を落とすような言い方になってしまうが、普通中学校卒業後に受験をする他の子たちと違って身体ができあがった高校生だ。二次性徴を迎えて退学になってしまう中卒の子よりも、安定して卒業が見込める彼女らを合格させる確率は高いと、薄汚れた大人の思考で導く。それを差し引いても彼女たちはジョッキーとしての腕前は優れているしね。
「そういえば、合格発表っていつなんです?」
「聞いた話じゃ、今日の十五時にネットで確認できるらしいよ。私たちが先に見るので絶対に先に見ないでくれと念押しされたし」
どうやら感動はみんなとわかち合いたいらしいのだ。お、キルレ高いなキャットワン、もう五匹目だ。
「いいぞキャットワン。今日のお前の晩飯はもんぺちだ」
俺の言葉に喜んだのかキャットワンは前足で顔を洗う。そんな俺たちを見て、大塚さんは大きく息を吐き。
「その名前やめません? 機械的であまり好きじゃないんですけど」
「俺だって猫や犬が十数匹なら愛情込めて名付けるよ……」
なんやかんや森狩りの際に子犬や子猫を拾うので牧場にはもう五十匹近く犬猫がいるのだ。いちいち模様と名前を覚えてらんないよ。キャットワンとか言ってるけどその場その場で首輪の色覚えてるだけだし。
「むしろ犬猫小屋を作ってるだけ感謝してほしいんだけど」
「それは飼育する側の義務です」
それはそうだけども。なんて、たわいもない雑談をしながらネズミを処理していると。
「鈴鹿さぁあああああああん!」
「やった! やったよぉおおおおお!」
音花ちゃんとほむらちゃんが土煙と共に俺に飛びかかってくる。右手に音花ちゃん、左手にほむらちゃんをキャッチして慣性そのままに三回転半し、そのままスローイン……
「投げないでくださいよ!?」
あ、やべ。なんとなく投げ飛ばすところだった。そのまま二人をゆっくりと降ろす。
「合格したの?」
「はい!」
「三人ともです!」
「そっか、よくやったね」
二人の頭をゆっくりと撫でる。そういえば、一人足りないな?
「おや、石田君は?」
「あ、親に伝えるために今日は実家に泊まるらしいです」
「……君たちは?」
「もうニャインで知らせました!」
君たちはもうちょっと親御さん大事にしよう?
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