リドル強化プロジェクト
ティムトットリドル強化プロジェクトは俺主導、撮影広報助手くんでぬるりと開始した。
まず始めに馬用の低酸素マスクをリドルの鼻を覆うように装着し、調教の時は外さないように徹底する。休憩時の給水などは全て手ずから飲ませることになるが、これは大した手間ではない。次に調教メニューはひたすらに坂路を走らせる、この手法はサイボーグと呼ばれた二冠馬が行った距離延長調教で、一定の効果があると知られている、これにマスクによる低酸素状態を組み合わせて心肺の強化を効率化するわけだ。この調教でリドルの心肺は2900メートル程度までなら誤魔化せるはず。
「社長、サプリメント配合終わりました」
「ありがとう柴田さん。確認のため読み上げを」
「はい、ホースフレッシュプロテインを二十グラム、ヒズメパワープロテインが二十グラム、きっちりと飼料に混ぜこませました。飲み水には例の水を使用しています」
「結構。坂路をあと二本こなしたらクールダウン後に給餌に移ります、夜間訓練は坂路一本、ポリトラックの1800メートル流しで行きます」
「はい!」
何故か目を輝かせている柴田さんを不審に思いつつ、これから指示を出してタブレットのアプリにリドルのデータを打ち込んでいく。体重や運動量を打ち込むと自動で欠乏する栄養素を弾き出してくれる優れモノである。真面目な顔で仕事をこなしていると、撮影をしている助手君が俺に尋ねてきた。
「あの、編集するときに困るのでさきほどのサプリについて説明してもらっていいですか」
「あぁ、ホースフレッシュプロテインは骨芽細胞の生産を促進するタンパク質を助けるサプリ、骨芽細胞ってのは骨を作る細胞だよ。ヒズメパワープロテインはケラチン、亜鉛、ビオチンを多く含むサプリ、名前の通りに蹄の強度をあげる栄養が詰まったサプリメントだ。とにかく多少の無理を通すために、リドルの身体への栄養が不足しない状態を維持し続けるためのサプリをこれからも配合していく。身体へのダメージケアも含めて毎日内容は変わるから、その度に助手君に伝えるよ」
「ありがとうございます! それで、これからの調教はどのように進行するんですか、わかりやすく! お願いします」
調子のいい助手君に大きなため息を吐き、こっちおいでと伝えてシミュレータールームの隣にある倉庫へ足を運ぶ。そこにある装備を見て、助手君は目を丸くした。
「なんですか、この大きなメガネみたいなやつ」
「馬用のVRゴーグル。馬の目に合うように作られていて、これを使ってスクリーニングするんだ」
「え!? それって危険じゃないですか?」
「凱旋島に重力感知式速度自動調整機能付きトレッドミルがある、怪我はしないよ」
「なんですかそれ、聞いたことないですよ!」
「そりゃ買ったのはいいけど使ってなかったもの。大丈夫、すでに大塚さんには怒られたから!」
「ああ、もう怒られたあとなんですね……」
ちなみに、今まで使用しなかった理由は、桜花牧場の調教設備で十分な効果が出ているからわざわざ遠い凱旋島まで移動するのが面倒だという身も蓋もない話である。
「スクリーニングから先の予定は決めてないけど、菊花賞の二週間前には精密整体検査を行うよ。これは身体の歪みや目に見えない疲労を科学的に感知するために必ずやります」
「踏み込んで聞かせていただきますけど、例えばどんなことがわかるんですか」
「マラソン選手なんかにはよくいらっしゃるんだけど、競技中、調教中の踏み込みを行った軸足の摩耗でちょっと足が短くなるんだよね。それを整体の力で元に戻したり、騎手の身体との接着を嫌って捩らせた身体全体のバランスを元に戻す。簡単に言えばこんなところです」
「へぇー、聞いたことないですね」
「まぁ、金がかかるからねぇ。桜花牧場とクラブの関係じゃないと、そして三冠狙いじゃないとここまではしないよ普通」
逆に言えば、ここまでしても勝ちの目は薄いのだ。
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