深夜の会議

 深夜、学生たちは旅館に帰して大人たちだけの会議を招集した。議題は馬たちの出産日についてだ。参加者は俺と尾根さんと柴田さん、おまけにリモートで山田君。


「尾根さん的には直近で産みそうなのいる?」

「……センガンドリルね。彼女以外は産んだ後だったり、四月末までずれ込みそうな感じだわ」

「確かに感覚としてはセンガンドリルは近そうですね。ずっとピリついてますから」


 俺の問いに尾根さんと柴田さんが答えてくれる。どうやらセンガンドリルがそろそろ出産しそうだと意見が一致した。あとは昼間に産んでくれるかどうかだけか。深夜でも関係なしに呼んでくれってのが学生たちの総意だったけど、真夜中にいきなり出産するから起きては可哀そうだ。彼らは従業員じゃないのだからね。


「もし予定が合わずに出産に立ち会うのがダメだったら、第二牧場では牛の出産が毎日のように行われてるからそっちを見に行ってもらおうか」

「彼女たちって農業高校でしょ? 牛の出産は見たことあるんじゃないの」

「あるらしいですが、あくまで代替案かつ出産だけでなく第二牧場内の設備も見てもらうことも重要なので……ね?」


 うちの第二牧場ってハイテクマシンの山だから実は凄いんだよ?


「……そのまま屠殺場も見せる気じゃないでしょうね」

「駄目かな?」

「ったりまえでしょう!? 獣医師目指してるあのこはともかく他はただトラウマになるだけよ!」


 やっぱり反対かぁ。命の在り方についてよくわかると思うんだけどな。

 柴田さんの表情からも反対を指示していることが見て取れるし、山田君も……あれ?


「山田君?」


 画面の向こうの山田君が白目をむいて俺の方を見つめている。とても怖い。尾根さんも柴田さんも引いてる。


「やーまーだーくーん!」

『はっ!? はい!』

「お疲れだね。眠ければ先に落ちてもいいよ?」

『いいえ! 先に失礼なんてしませんとも! 今年こそは種付け会議に参加させていただき――――』

「それ、もうとっくに終わってるよ」


 画面越しに絶句する山田君。いつもこの時期だから油断したな? 既に種付けの割り当てはすでに決めているのだ。俺と尾根さんと大塚さんの三頭政治でな。


『う、嘘ですよね?』

「マジです。もう寝てもいいよ山田君」

『うわぁああああああああ! 眠れません! 眠れませんとも! どうして、どうして僕を参加させてくれないのですか!』


 仕事が増えるからです。


「まぁ、明日から山田君って連休でしょ? 島に帰ってきてゆっくりしなよ」

『いいえ! 納得できません! 身を粉にして働いているのに僕だけ牧場の行き先を示す会議に出席できないなんて! もうストです! ストライキですよ!』

「明日、海外から輸入した種牡馬が到着するけど見に来ないの?」

『寝ます! おやすみなさい! 社長大好き!』


 通話が切れた軽い音が鳴り山田君が画面から消える。

 うーん、本当に扱いやすい男だ。こら、尾根さんったら白けたまなざしはやめなさいって。


「……それで明日、っていうかもう今日だけど、あの子たちは何処を案内するの?」

「えー、午前中は凱旋島のスタリオンステーションで種付けやらの説明をして、午後からはホースパークで乗馬や経営について学んでもらおうかと」

「それはいいですね。妻橋さんへ任せればいい感じに学んでくれそうですし」

「そうねー」


 なんでそんなにふわっとしてるの君たち。

 困ったら妻橋さんは確かによくあったけど! 最近は困ったら大塚さんになってきてるけど! あんまりいいたくないけど! 大塚さんって俺たち最初期組の中で一番年下だからね!

 反省しよう俺たち!


「あ、それよりもよ。馬の種付けシーンなんて女子高生に見せて大丈夫なの? セクハラで訴えられない?」

「命がけで種付けしている馬たちをからかい半分でそんなこといったら高校生だろうがぶちころがしますよ」


 ふざけた雰囲気が一気に沈下した。

 慌てたように柴田さんと尾根さんがフォローする。


「本当にぶちころがさないでよ!?」

「穏便にお願いしますよ! 本当に!」

「大丈夫ですよ」


 そんなふざけたこと言うタイプの子はいなかったから。


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