桜花島のお弁当三銃士を紹介するよ。

「本日はご足労いただきありがとうございます」


「いえいえ。こちらも音花ちゃんとほむらちゃんがお世話になっております」


 俺の控え室になっている理科準備室で初老の担任の先生と挨拶を交わす。学校に一人はいた常にニコニコの表情を浮かべる菩薩のような男の先生だ。


「一人だけ隔離する形になってしまい申し訳ございません」


 そう、俺だけが他の講師の方々と違い理科準備室に隔離されているのだ。理由は簡単、俺が有名人だからだな。ドラマとか出てるし知名度はそこそこあると自負している。


「そこそこ……?」


 先生がそうなの? って表情を作る。

 撮影機材の点検をしている広報助手君が何言ってんだコイツみたいな顔をしているが気にしない。


「それで、社長はどのようなお話をされるんです?」


「うん? そりゃ馬産の話だよ」


「生徒たちが飽きちゃいませんかね?」


 なんだよ、損しない馬券の買い方でも教えろってのか?


「ああ、博打の話は無しでお願いしますね。教育委員会に怒られます」


 あ、釘刺された。当たり前だけども。

 そんな感じに先生と談笑しながら横から助手君が茶々をいれるなんてことをやっていると、昔聞きなれたキーンコーンカーンコーンの鐘の音が聞こえてきた。

 スマホのスリープボタンを押して時刻を見ると十二時半、いい時間だ。


「お昼休みですね。お二人はお食事を外へ食べに行かれますか?」


 事前に食堂は遠慮してくれと通達を受けているので高校の食事をいただくことはできない。故に、腹を満たすには外食するしかないのだが。


「いえ、今日は弁当をもってきているのです。どうですか先生もご一緒に?」


「よろしいのですか? いやはや、谷野によく聞く桜花島の食事をいただけるとは役得ですな」


 賢い俺はスターホースのマスターにお弁当をお願いしていたのだ。

 理科準備室の隅に置かせてもらっていたクーラーボックスから小分けにされた昔ながらの木織りの籠型ランチボックスを四つ取り出す。桜花豚の肉巻きおにぎり、桜花牛百パーセントミートボール、桜花島で育てた野菜のみを使用したシーザーサラダ、蒲鉾・卵焼き・焼きサバ詰め合わせ、一つ一つ準備室の作業台の上に広げていき、魔法瓶に入ったみそ汁を紙コップに注いで配っていく。カトラリーと紙皿をそれぞれに手渡して。


「いただきます!」


 我慢ができなくなった助手君が肉巻きおにぎりを素手でかぶりつく。ちょっと、フォーク配った意味がないじゃん。


「う、旨い! あっさりとして重くない、しかしハッキリとした味付けの甘さを持った豚肉が適度に塩気の効いたおにぎりと非常にグッドマッチ!

 このミートボールも素晴らしい! 固くない、されど緩くもない! 肉巻きおにぎりとは対照的にかなり濃いめの味付けなのに箸が止まらない! 間に挟むシーザーサラダがその味付けをリセットしてくれて無限に食べられる!

 肉巻きからミートボール、サラダを経由し焼きサバ・卵焼き・蒲鉾のトライアングルを食して肉巻きに戻る、これが桜花弁当の偉大なる航路グランドライン! ありったけの飯をかき集めて空腹を満たしに行くのさァ!」


 はいはい、ウィーア。先生は先生でグルメ漫画みたいな感想を言ってるし。あ、味噌汁美味しい。あら汁とは憎いことしてくれるじゃないのマスター。



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