授業は準備九割
「おはようございます。いやぁ、三連勝した後の仕事は晴れやかな気分で行えますね!」
事務所で仕事をしていると山田君が資料の束を抱えて入室してきた。
お昼時なので大塚さんは最近家族になった犬と猫たちに餌を与えに行き、事務員の子たちもスターホースへランチを食べに行ったので、ヘラヘラと笑う山田君を見たのが俺だけだったのは幸いだった。コイツ、案件取りすぎて大塚さんの仕事をめちゃくちゃ増やしすぎてたからな。この顔見たら大塚さんが怒り爆発するかもしれん。
「あー。それで、わざわざ島に戻ってきたのは何ようだい? 君って死ぬほど忙しいでしょ」
「確かに世間話するために戻ってくるほど暇じゃないです!」
いや、胸張られても困る。仕事取りすぎなんだよ広報課。営業課と兼任になってるけど独立させるべきかこりゃ?
「以前にお願いした音花ちゃんとほむらちゃんの学校の臨時教授のお話を社長とすり合わせたいなと思いまして」
「ああ、例の……」
山田君を通してJK組二人が所属する高校から俺に仕事の依頼が来た、年度末の春休み前に一年生と二年生合同の外部講師による特別講義ってやつのお願いだ。
内容はためになるものならなんでもいいらしく、他にも県立大学の教授やF1レーサーなんかも過去には訪れたことがある特別な授業なんだとか。
「学校としてはカリキュラムを消化しきってるから年度末の授業ぐらい楽したいってことらしいですけどね」
「うーん、気持ちはわかる」
うちも数年前まで年度末は死ぬほど忙しかったからな。今は誰が欠けてもどうにかなる会社として健全な業態になったが。それでも俺と大塚さんが両方いないと麻痺しかねないんだけどね。
「と、いうわけで。僕がある程度の講義草案を作ってきました。三つあるのでお好きなものか、ハイブリッドしてしまうのも手だと思います」
そういって手渡された封筒から原稿の紙を取り出して目を通す。
ふむふむ、これはこれは。
「見事に馬に関することだけなんだね」
「牧場の長としての社長にお声がけしていただきましたから。やはり、牧場の話をすることがベストかと」
確かに学校で博打の話しなんてしたら大顰蹙買いそう。
「それにしても、公立の学校のお願いなんてよく聞いたね。忙しいから突っぱねてもよかったんだよ?」
「ああ、それはですね……。得も言われぬ事情がありまして」
ん? 知り合いから頼まれたからとかか? 山田君にしてはとても歯切れが悪いな。目も泳いでるし。
「今年のこの授業の責任者って音花ちゃんとほむらちゃんの担任の先生なんですよ。二人が普段お世話になりっぱなし、特にほむらちゃんの成績に関してはかなり迷惑をかけているので断りにくくて……」
……それは断れんわなぁ。
「結局、鈴鹿さんはなんの授業をしてくださるんですか?」
山田君と打ち合わせをした日の夜、いつも通りに音花ちゃんとほむらちゃんと共に食事をしながら談笑する。内容は特別授業についてだ。
「鈴鹿さんだったらなんでもおかしく話してくれるから退屈しないんだけどなぁ」
「二人とも授業の抽選はずれたもんね」
桜花牛のすき焼きを桜花鳥の溶き卵につけて食べる二人が残念そうに言う。悲しいことを考えながら食べると美味しくなくなるぞぉ。
つか、面白くじゃなくておかしくって評価は何なんだ。褒められてるのか?
「確か授業を受けられるのは教室の大きさの関係で三十人だけなんだって?」
「ですね。体育館は就職マナーの講座で埋まってるので。次に大きな視聴覚室も実験をする大学講師の方が使用するので一般教室しか空きがなかったらしいです」
まぁ、俺は喋るだけだしな。スペースが必要な人に場所を譲るのは当たり前だ。
「そ・れ・で! 鈴鹿さんはいったい何をお話しするんですか!? 私、気になります!」
どっかで聞いたことある言い回しでほむらちゃんが俺に詰めてくる。顔の目の前まで来るもんだからちょっとビビった。
俺はそんなほむらちゃんを両肩をもって押し返して座らせて、せっかくなので二人に授業内容について聞いてもらうことにする。
二人は喜んでくれたが、これって広報補佐君が録画するからWetubeで後から見ることができるんだよね……。
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