去ったもの訪れたもの

 明らかに身体能力が上がっている。気づいたのはいつだっただろうか?

 思えば素手で野生動物をどうにかできるなんておおよそ人間じゃない。冷静になってみたら、暴力を振るえば頭を簡単に飛ばせるような人間の経営する職場で働きたくなるものなのだろうか。ロストシュシュのブラッシングをしている柴田さんに聞いてみた。


「今更では。というよりも今日は山に入るんじゃなかったんですか」


 凄くどうでも良さそうだった。




「てな感じで塩対応されたんですよ」


「いつものことたい」


 川で猪を冷やす準備をしている桜花煎餅のおじさん店主が、ちゃっきちゃきの博多弁で俺の話に呆れたように言う。

 俺は既に猪を三匹狩っており、運ぶことが難しくなってきたので拠点となっている森の河川に全てを運び込み、しばしの休憩を楽しんでいるところだ。


「第一よ。静ちゃんが至らん事したらば沙也加ちゃんの蹴りば飛んでくるばい。あの娘がパンプスやめてスニーカーにした理由はアホやったアンタ蹴るためばい」


「マジで!?」


 牧場経営数年目にして語られる驚愕の真実じゃん!


「力ば強いだけじゃ女には勝てんとよ。アホやる前に皆に相談することたい」


「面目ねぇ……」


「鈴鹿さん! くちゃべってないで手伝ってよ!」


 女子高生数人がかりで木に猪を吊るそうとしているがビクリとも動かない様子だ。業を煮やしたのか俺に怒鳴りながら手伝えと彼女らは吼える。

 俺とおじさんは顔を見合わせ、一つ笑ってから俺はそちらへ駆け出す。今日は普段より頼られてるなぁ。





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




「で。拾ってきちゃったわけですか」


「然り!」


 森を虱潰しに散策していると、いつぞやのように突然の拾い物を発見した。子猫二匹と子犬が五匹である。残念だが親は見当たらなかった。季節も季節だし見捨てるわけには行かなかったので牧場まで連れ帰ってきたのだ。


「カ・ワ・イ・イ!」


 大塚さんと事務員二人は愛くるしい彼らに既にメロメロである。

 ワーキャーと叫ぶ彼女たちに柴田さんは辟易としながら俺に問う。


「全頭ここで飼うんで?」


「一応ね。あの三頭を拾った時には人手が足りなかったから大塚さんに任せたけど、今なら誰かしらが牧場に常駐してるし飼っても問題ないでしょう」


「構いませんけど番犬にするなら教育してくださいよ? あの三頭は誰にでも尻尾振るから番犬にならないんですから」


「ははは。頑張るよ」


 ダンボール箱の中でミャーミャーやらヒャンヒャン鳴く子供たちを眺めながら、牧場を去ったものもいれば新しく訪れたものもいるのだと実感した。


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