獣狩りも仕事
東京新聞杯もファーストの勝利で終わり、牧場が出産ラッシュに入る。今では人手も設備も増えて、俺や尾根さんの負担もかなり減ったこともあり、桜花島に来て初めての大がかりな害獣駆除に乗り出すことにした。
冬の寒い時期が終わりつつあるのでボチボチと猪や鹿が桜花島の山の中から降りてきて、挨拶代わりに島の畑や牧場の飼い葉を狙うのだ。
畑はともかく飼い葉は食べられてもそこまで気にしなくてもいいのだが、食べられることよりも重大な影響がある。
匂いだ。鹿や猪の匂いが厩舎、特に馬房の中についてしまうと馬が途端に落ち着かなくなる。馬房に余裕があるとは言えども出産シーズンに万が一が起こってしまうと面倒だから早めに駆除することにしたのだ。
「つーわけで、島民から駆除班を募ります。畑を管理している人たちからは十五人、人員を提供してもらえるそうなので商店街側もそれぐらいの人員が欲しいです」
平日の夜、居住区エリアの商店街の中にある公民館で狩猟会メンバーを集めて会議を行う。
この島は福岡県に属しているので猪と鹿の狩猟は四月の十五日まで狩猟が許されている。無論、特定の猟具を使わなければいつでも狩猟していいのだが、そんなことができるのは俺ぐらいだ。普通に危険なのでそれは控えてもらっている、当たり前のことだが。
狩猟会のメンバーは猟銃免許持ちが三名もいる。スターホースのマスターと居酒屋・伝説の大将、それと珍しいが筆職人の御婦人だ。グリの毛で一点物の筆を作った職人さんね。彼らをリーダーにして五人組を作り、出来るなら面で狩りたいんだ。
何故なら、島の森の奥で鹿が大繁殖していることが以前の調査で判明しているため、島奥の木々がボロボロになっている可能性が高い。早めに数を減らさないと生態系が取り返しのつかない結果に繋がりかねない。防風林が減ってしまうと市街まで強い寒気が辿り着いてしまうから森は大事なんだ。
「猟銃使える俺たちは確定だろ? あとは山に詳しい桜花鉄器屋の女将が欲しいな。当然うちの倅も出す。高校生のガキンチョたちも小遣いやれば参加するだろ」
伝説の大将の提案にその場に居合わせた全員が頷く。島の若い高校生たちなら動き回っても疲労は残りにくいだろう。公民館に集まった人たちの俺を除いた年齢平均五十越えだしな……。無理をさせると体力切れで遭難なんてことになりかねない。
方針も決まったので各自知り合いの若い子たちに連絡を取り、畑組と同じになる人数を集めることができた。
畑管理人組は猟銃免許を持っている人ばかりなのでワンマン、もしくはツーマンセルで行動して猪と鹿狩り。商店街組はファイブマンセルで行動してスポットや連絡を密にする。第三チームとして森の中を通っている川に拠点を張り、森の中で行動しない双方の年配の参加者が情報をまとめてくれる手筈になっている。狩った獣を加工するのもこのチームだ。命を奪う限り、やはり美味しくいただかないとね。
俺はどのチームかって? はっはっはっ。
「旦那はスタンドプレーで頼む」
「脊椎を素手で引っこ抜く人と一緒にいたら獣の勘で逃げられてしまうかもしれませんからね」
「真顔で言うのやめてもらえます?」
仲間外れにされて一人で狩ることになりました。キレそう。
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