4×3は18.75

「鈴鹿社長はいらっしゃいますか……。どうなさったんです?」


 市古さんが昼間の事務所に尋ねてきたが、俺と大塚さんはグロッキー状態である。原因はもちろんほむらちゃんの成績に関してだ。

 天皇賞秋が終わり、エリザベス女王杯が今週末に待っているのだがそれを気にできないほどの小テストの結果だった。

 毎日根を詰めて学校から帰宅した後に三時間の補習を俺らで行ってきたが、まぁ……。胃が痛くなってきたからこの話はやめよう。

 とりあえず4×3の答えが18.75で通るのは競馬界隈だけだぞほむらちゃん。


「いえ、想定外の問題が降って湧いてしまいましてね。市古さんはマイルチャンピオンシップの?」


「出走予定馬の情報をお持ちしました。後ほど羅田先生と足立騎手を交えたネット会議をしますので、お手数ですがご出席をお願いします」


「了解です。時間は?」


「二時間後の十三時からですのでクラブの第二会議室にお願いします。……第一はセカンドに何を付けるかで戦争状態になっていますので絶っ対っ! に入らないようにお願いします。社長に言質を取ろうとして収拾がつかなくなりますので」


 では失礼します。と若干すすけたように見える背中を俺に見せながら市古さんは去っていった。苦労してるなぁ……。

 今年も年の瀬が近くなってきているが新世代のクラブ馬たち、売れていった子たちも続々と出走して成績を残している。下手な種牡馬をつけるとクラブの会員に怒られるんだろうなぁ。

 世代といえば。イギリスで障害馬になったロドピスは年始にメイクデビューすると連絡があった。久しぶりに話したウィルさんは完璧に仕上げたので間違いなく一着になるだろうと太鼓判を押していたので実に楽しみである。


「ぐぬぬ……」


「大塚さん? 未婚女性が出しちゃいけない声と顔してるよ?」


 憤怒の形相……。というより明王面のような表情でキーボードを打鍵する大塚さんに尋ねてみる。コワいけど。


「ほむらちゃんの担任の先生とメールでやり取りをしていまして。二学期末テストを四十点以上超えるとおそらく進級は可能とのことです。仮に四十点以下を取ってしまっても追試と特殊課題を提出することでカバーはできるそうですが……」


「内申は?」


「死にますね。もし、競馬学校に落ちたと考えると……。あ、胃が……」


 凱旋門より勝ち筋見えない。俺たちは軽く言っているが競馬学校は狭き門だからね、なるべくならば一発で入学させてあげたいので、来年は馬を使っての実技練習もさせてあげたいし学業は並みでもいいから不安がないようにしてほしかったんだが……。無理そうなので、とりあえずマイルチャンピオンシップは留守番して勉強会だな。目黒牧場に居を構えるようになった柴田さんの弟も滑り出し順調みたいだし、俺と大塚さんがほむらちゃんに構いっきりになれるのはありがたい。

 もはや牧場業務とは関係ないが、彼女がジョッキーになったときにうちの馬を優先して乗ってくれるだろうし長期的に見れば牧場の益になっているはず。多分。


 ……気分転換にレジェンの顔でも見に行こうっと。


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