ほむらの成績
年内の出走がマイルチャンピオンシップと有馬記念だけになり人心地ついた桜花牧場陣営だが、実は問題が一つ発生した。
「おっ、おーん……」
「ほむら。諦めちゃ駄目だって」
「ぐぬぬ……」
ほむらちゃん学力問題である。
彼女は高校に入ってから学力が右肩下がりで、親御さんから俺にワザワザ連絡が来るぐらいの成績らしい。高校卒業のタイミングで競馬学校に入学するつもりの二人だが、ほむらちゃんだけダブって一年遅れで入学なんて笑えない。故に俺と大塚さんが協力して勉強を教えることにした。
「因数分解て何よ。勝手に分解しないでよ。自然のままにしておいてよ」
なお、競馬学校の入試に数学は使わない。というより入試の内容は中二相当の国語と社会、時事問題と普通に学生していたら高得点は取れる内容だ。結局大事なのは体重管理とフィジカルだからな。
それでも親御さん的には高校卒業までは確実にしておいて欲しい気持ちもわかる。本音で言えば大学まで出てほしいんだろうが騎手学校の入学は二十歳までだからな。もし万が一、落ちてしまった場合は親御さんから大学に進学させるつもりであると内々に聞かされているが……。ほむらちゃんは頑張って高校卒業して競馬学校に入学してくれないとヤバそうだ。
そんなわけで俺が国語と社会、あと馬に関して。大塚さんが数学と英語を担当し、妻橋さんが理科系を教えてくれることに。なんと妻橋さんは実は理科の教員免許持ってるらしい。なんで厩務員やってるんだ……。
「そういや、中間考査は何点だったんだい? 親御さんからみっちり教えてやってくれと言われただけだから聞いておきたいんだが」
俺がその話を振るとほむらちゃんからビックリした時の猫の耳と尻尾が見えた気がした。
ははーん。さては笑えないなこれ。
「十五点です」
「ん? 何の教科だい?」
音花ちゃんが笑いをこらえながら俺と大塚さんに向けて点数を教えてくれた。苦手教科がわからないと困るんだが。
「平均点です」
……はぁ?
「五大教科の平均点が十五点なんです」
……ああー! 胃が痛くなってきた!
隣を見ると大塚さんが頭を抱えている。俺も抱えたい!
「保健体育と家庭科は満点よ!」
「いや、入試に使わないし」
それはそう。ああー、ヤバいことになってきた。留年が現実的だぞ!
「とりあえず、期末試験が終わるまでほむらちゃんは勉強づけだ! この点数は君たちを預かっている者としても看過できん!」
「そんな! 体が鈍っちゃいますよ!」
「喝っ! 言うとる場合かぁ! 大塚さんをみんさいや! 絶句してるぞ!」
「逆にどうやるとその点数を取れるかを知りたいです」
辛辣! 大塚さんの言葉がほむらちゃんに突き刺さってる!
「私も真面目に授業を聞いてるのに点数が取れないほむらは凄いと思う」
「アタシもそう思うわ」
本人が肯定するなよ。学習内容を咀嚼して身にできてないのが一番ヤバいんだぞ。
「とにかく全てを教えないといけないと理解しました。社長、今から博多に向かって学習教材を買ってきます」
「うん、よろしく。俺は浅井騎手たちに競馬学校の過去問なんかをもってないか聞いてみる」
公式ホームページから過去五年分の入試問題は買えるが、それより前のものを入手して傾向を掴んでおきたい。中二レベルとはいえ学力で落ちるなんてあってはならんからな。高校中退で競馬学校に入学なんて俺は許さん。
真剣にファーストのマイルチャンピオンシップよりほむらちゃんの進級のほうが心配になってきたぞ……!
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