ショート君オコだよ
数週間の内に牧場内の仕事を終わらせて、再びフランスへ旅立つことに。
凱旋門賞に合わせて早めに現地入りしたかったのだが、仕事の都合でまさかの当日の朝に空港に到着する予定になった。
ぶっちゃけ福岡空港から成田へ、成田からシャルルドゴール空港への飛行機旅はかなり身体に来る旅程になった。しかもシャルルドゴールからバスに乗って追加で一時間の移動だ。正直もう寝たいぐらい。
『着いたよお客さん』
『どうも、あたたた。身体がバッキバキだ』
『はっはっはっ、凱旋門賞を見たらそんな疲れは吹き飛ぶさ。楽しんでおいで!』
『ありがとう、そうさせてもらうよ』
バスの運転手さんに送り出されてロンシャンレース場のゲートに向かう。
ド派手な仮装をした男女や、広場では音楽と共にダンスをするパフォーマンス、挙句の果てには帽子なんかも売っている。
それにしても、凱旋門賞当日は人が多いなぁ。
「鈴鹿さん!」
「うん? ああ、海老原さんのとこの…」
「はい、ショートの補助で来ている厩務員です。市古さんとおやっさんから馬房に引っ張って来いって言われまして」
「よくここにいるってわかったね?」
「あの…、市古さんがスーツに発信機付けてるからっていって携帯を貸してくれて…」
「彼らの中で俺はふらふらとどこかに行って迷子になる子供か?」
ポケット探ったら入ってたわAirT○g! 大塚さんが入れたろこれ!
「ショートがご機嫌斜めなんで宥めてあげてください」
「はいはい、わかりました。急ぎましょう」
厩舎に入るとショートがブルブルと鼻を鳴らしてご機嫌斜めだった。
海老原のオッサンと市古さんとロメール騎手が困った顔をしてショートをなだめようとしているが効果はなさそうだ。
「お疲れ様です。どうしたんです?」
「ああ、やっときてくれましたか社長!」
「アンちゃんショートを宥めてくれ!」
「私たちでは無理でして…」
なにやら緊急のようなので理由は聞かずにショートの鼻頭を撫でる。
荒れているが段々と次第に荒い鼻息が収まっていき、最終的に俺の手を甘噛みするぐらいには落ち着いた。
市古さんから差し出された人参を食べさせて落ち着かせるのは完了だ。
「御見事、いや助かったぜ」
海老原のオッサンが冷や汗を拭いながら言う。
なにやらピンチだったのか?
「厩舎からの搬送でドールスターとカチあってな…。お互い目を見るなり敵視して四人がかりで抑えて大変だったんだよ」
「その後もショートは不機嫌で餌も食べない有様で…」
へー、大変だったんだな。俺も尻が痛みで爆発しそうだったけど。
「レースの並びは? まだ見てないけど隣同士じゃないよね?」
「安心してください。最内と大外です」
「どっちがどっち?」
「あっはっは、俺たちが大外に決まってるだろ? 桜花牧場だぞ?」
大外多かったのレジェンだけだろ!
「急遽ブリンガーを申請して装着しますが、ショートは先行馬でドールスターは逃げ馬です。姿を見たショートの制御が効かなくなる可能性もあります」
「私に頑張ってみますが抑えすぎるとレースになりませんので…」
「ええ、ロメール騎手はショートのしたいようにさせてあげてください。
鞭も最終直線まで入れなくて大丈夫です」
「わかりました、やれるだけやってみます」
問題は馬同士より雨が全然降ってないことなんだよな…。
重馬場だとショートがガン有利なんだがなぁ…。
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