答え合わせ(答えは解答欄の横に記載されているものとする)
「あー、ちょっとした用事が入っちゃってね。尾根さん後は任せてもいいかな?」
「アンタ、それは無責任じゃない?」
診療所の中に戻り談笑していた二人に謝りつつ、退席することを告げる。
尾根さんからは非難の声が飛んできて、足立さんも不満そうな表情を浮かべている。
「大丈夫だよ。薬の担当の人と相談して効果が出るであろう割合を聞いてきたから、次で効果が出るはずだ。
急な用事ってのも桜花賞の件について知り合いの刑事さんに動いてもらっててね。足立さんとセカンドにやってくれたことのケジメをつけさせるために俺が動かないといけなくなっちゃってさ」
二人はその言葉に納得したようだ。
魔法の手帳の配合割合が書かれたページを見ながら例の水を調合して足立さんに手渡す。
「これが答えの配合です。注意してください、飲んだ後に左腕の運動を行うと回復によって激痛が走ります。
それは神経を治している痛みなので我慢して運動を続けてください。あ、歯が割れるといけないのでマウスピースを噛んだ方がいいと思います」
「そんなに痛みが?」
「死んだほうがマシだと思うぐらい痛いらしいです」
手帳が言うにはね。お前無機物じゃないかと思ったが。
「あー、ちょうどよかったわね。沙也加が使ってるやつの新品があるわ」
なんで事務員が使う必要が。
「アンタのせいでサンドバックを蹴とばすときに歯が割れないようによ。
あの鋭い蹴りを尻にかまさないだけ沙也加も優しいわ」
「食らわないように以後気をつけます。
じゃあ、後は頼みます」
はいはーいと軽い口調の尾根さんと、頑張ってくださいと足立さんのエールを背に診療所から退出する。
診療所からさほど離れていない事務所のドアを開けるタイミングで診療所からとんでもない声量の叫び声が聞こえた。
南無三≪やっぱりな≫。頑張って治療してくれ足立さん。
ーーーーーーーーーーーー
『はぁい、セイジ久しぶりね』
『ようオリビア。元気かい?』
『ボチボチね。相変わらずの忙しさよ。おかげでコスメを買いに行く暇さえないわ』
『おやおや、女の子に取っては辛いもんだな。だったらおじさんからプレゼントを上げよう』
『あら、いったい何かしら?』
メーラーからオリビアのメールアドレスに向けて桜花賞の八百長の証拠を送信する。
『メールを見てくれないか』
『え? ちょっと待ってね。
………、これは』
『うん、桜花牧場の馬が狙われた事件の真相だ。
日本の警察が証言があるのに二週間かけても収穫ゼロなのも納得だよ。
主犯はイギリスのブックメーカーだったんだからね』
そう、手帳が示した主犯はイギリスのブックメーカーの一つだった。
まず日本の暴力団を唆し、利益の分配を約束する。暴力団が借金を理由に十勝山にチャージ≪たいあたり≫をするように強要して、桜花賞の八百長事件になったってのが真相ってわけだ。
細かいことは省略するが、要は海を挟んだせいで日本国内で収まる事件じゃなくなったんだ。
証拠は既に全部集まってる。まぁ、アプリか手帳が不思議な力でやってくれたんだろうが、手帳の指示通りに事務所の資料棚を調べたら証拠資料がいつの間にか纏めて置いてあった。
あの時の熱やお怒り長文といい、手帳、もしくはそれを操っている埒外の何かは今回の事件に大分ご立腹のようだ。
もちろん俺も怒っているのでありがたく警視庁の知り合いの刑事に提出させてもらった。
国内はこれでいいんだが、問題は国外だ。流石にイギリスの警察に資料を渡しても「なんだこれ」で相手をされないのが見えてるので、せっかくの人の縁だ。有効活用させていただこうと思ってオリビアに電話したのが今の状況だ。
『最悪なプレゼントね。また休みが無くなるわ』
『名前は売れるぜ』
『これ以上は要らないわよ』
HAHAHAと二人で笑う。
『でも、これはありがたい情報ね。このブックメーカー、代表がサンドって奴なんだけど最近金回りが良すぎるみたいでね。他のブックメーカーでも大分怪しんでたみたい』
『一番人気だったセカンドを潰せばそりゃ頭はノンバイプレイヤーしかいなくなるから勝率の高い賭けになるわな』
桜花賞でノンバイプレイヤーは気性の関係で四番人気だった。見る奴が見れば舐めて走っても負けはしない実力差があるってわかったんだが、走るか走らないか分からないってのが大きかったんだろうな。
おかげで三連単の配当はギリギリ五桁、なかなかの払い戻しが付いている。
そして、サンドってやつはその馬券を五十万円分購入している。頭は決まっているが二着三着は分からなかったしな、資金を用意して分配して買ったんだろう。それでも五十億近い払い戻しだ。十分利益になってるな。
俺たち桜花牧場の人気が裏目に出た事件でもあるんだ。人気が出て馬券を買う人が増えたせいで穴馬を当てたときの配当がかなり大きくなっている。そこにつけこむ悪党も残念ながら当然出てくる。
俺たちは競馬でもって愛馬たちを競わせたいだけなのにね。まったく面倒だ。
『とにかく、これはお父さんと叔父さんに相談して警察に届けるわ。安心して頂戴』
『うん、よろしくね。落ち着いたらまた桜花島に遊びに来てくれ』
『もちろん。アナタもイギリスにいらっしゃいよ。今年はロドピスもメイクデビューなんだから』
『ああ、必ず観戦に行くよ。じゃあ、元気で』
『ええ、そっちもね』
通話を切り、一息つく。今日は事務員の皆が出払っているから静かなもんだ。
これで一件落着? いやまだ犯人が捕まってないから安心はできないな。
順調にいけばサードはアメリカから帰ってきたら菊花賞には出してやれるかな?
……あー、ダメだ。安心したらだんだん眠く……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます