進む経営分離
西島さん、渡辺さん、螺子山さんを迎えて今は三月下旬。
西島さんは二頭のご購入。演歌歌手ってお金持ってんのね。
続いて渡辺さんは一頭のご購入。相馬眼はお二方とも相当なものを持っているようで、先に西島さんが唾を付けた馬を買いたいと言っていたが、購入は早いもの順なので断念してもらった。
最後に螺子山さん、問答無用でレアの仔をお買い上げした。驚いたことに仔馬も螺子山さんに懐いている。レアは飼い葉を食べながら無視してたが。
つまり、今の桜花牧場には四頭の引き取り手がいない二歳馬がいる。
このまま行けばクラブ馬が増えて市古さんとスタッフが死ぬ、なのでどうにかして後三頭ほどは売りたいのだが…。
ここで白羽の矢が立ったのが大森調教師。牧場を始めたての頃に、アメリカで出会った中央の調教師さんで海外に挑むのがメインのローテを組む人だ。
その大森さんから海外で信頼できるオーナーから是非とも馬を売ってほしいと相談を受けたと、羅田さんを通して連絡をくれた。
渡りに船だったので、二歳馬なら見学に来てただけたら紹介できますと返して今日にいたる。四月に入ってからの訪問になるそうなので、馬の出産と被って少し慌ただしくなるかもしれないが仕方がない。
「そんなわけなんで、入社が決まった事務員さん含めて今年はどうにかなると思います」
「ありがとうございます…。ありがとうございます……」
市古さんがガチ泣きしているが無理もない。やっと残業地獄から解放されるからな…。
「これで体制は整ったのでクラブの経営権を完全に市古さんに委任します。ローテーション等は羅田さん、海老原さん、もしくは他の預託した調教師さんと相談して決めてください。
極端な赤字を出さなければクラブ主導で何をしても構いませんし、クラブ馬の産んだ仔馬はクラブが主体となって販売、もしくは出走馬登録をお願いします。
お金を出せば桜花牧場の仔馬を勝ってもらってもかまいません」
つまり、どういうことかというと。一緒の家に住んでいるが、もう財布が違うので欲しいものがあるなら自分の懐から出してねという話だ。
怪我等をした場合は尾根さんが行う治療費はクラブの出費になるし、海外遠征等も自身で賄ってもらう。アプリ産のドリンク等もな。
「承知しました。市古昌晃、謹んで健全な経営をさせていただきます」
「ないとは思うけど、本当にどうにもならなくなったときは言ってね? どうにかするからさ」
「社長のどうにかするほど安心できるものはありませんね」
なんで笑う。
事務員の教育をしていた大塚さんが帰ってきたので、経緯を話して俺のフォローしてもらおう。
「社長のどうにかするは本当にウルトラCで解決しますから…。市古さんの反応は正常かと」
大塚さんもそっち側か。味方いないぞ。
「社長を信頼しているんですよ」
「問題を起こすのも解決するのも御自身でなさいますから、私たちは慣れました」
アレ? 俺ってトラブルメイカー?
「自覚がおありでない!?」
「もう少し自身を客観視してください」
すみません…。
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