年末に向けての打ち合わせ
クラブ馬のローテーション決定から十日後、俺は中央競馬の本部に来ている。
ちなみにオウカサードは怪我など感じさせない見事な走りで勝利をもぎ取り、オープン馬へと歩を進めた。
「オーナー、クラブ馬の勝利おめでとうございます」
「どうもどうも、ありがとうございます」
中央のお偉いさんが祝辞を述べてくれる。
今日は年末のレジェンドジョッキーレースの擦り合わせのためにここを訪れた。
「とりあえず企画書の通りにジョッキーたちのカレンダーは抑えました。今年の最終レースが二十八日ですからちょうど三十日に前乗り、三十一日にレースを行う形になりますね」
「予選が六回、そこから休憩を挟んで本戦ですからスケジュール自体は一日で終わるので大丈夫でしょう。宿はホースパークキャンプ場のコテージを貸切にするように手配してますからご心配なく」
冬季キャンプだからそんなに人も多くないし、これはそんなに難しくなかった。
「それで、休憩時間の合間のエキシビジョンをどうしますか? 無茶なお願いを聞いてもらったのでこちらは協会の方に選択を委ねますよ」
「ほう…。それはありがたいですがよろしいので?」
「構いませんよ。脱落者たちが挑む五回分のレースを選んでもらえると事前に準備できるのでなるべく早くお願いしたいのが本音ですが」
ソート機能があるとはいえ一々選択していたらグダグダするから事前に選手たちから乗りたい馬を聞いてある程度数を絞っておきたい。
日本馬はともかく外国馬なんかは結構検索に時間かかるしな。
「ふむ、少々時間を頂いてもいいですか? 追って連絡を差し上げたいと思うのですが」
「結構ですよ、レースの三日前までに連絡をいただけるとありがたいです。前日だと私が島に居ませんから」
「ああ…。そういえば引退レースでしたね。どうにも彼女の元気な姿を見ていると来年も走ると思い違えてしまって」
ははは、と笑うお偉いさんはどこか寂しそうな表情をしていた。よかったなレジェン、お前のファンはこんなところにもいるみたいだぞ。
「実際の所、彼女はまだまだ走れると思うんですが何故引退を?」
「以前も言ったんですがレースでの負担が馬鹿にならなくなってきたのと早めに繁殖にあげたいからですね。
きっと彼女の仔たちはいい競走馬になりますから」
「それはそれは、それ以外の競走馬は持たれないので? 協会にも伝手がありますから良血馬に渡りをつけることもできますが」
「今のところは考えてないですね。牧場や島の経営で手一杯になって何頭も抱えるとパンクしてしまいます。
なので桜花クラブに買い手のつかなかった馬たちは回すつもりです」
「初年度でこの成績ですからね。来年は口数の取り合いになると思いますよ」
「だといいですねぇ」
二人ではっはっはと笑い、話を戻す。
「今回も実況は宮家雅治さんに依頼して、ゲストには内藤浩二さんを呼ぼうと思っています」
「両名とも喜んでくるでしょうね」
前回二人とも興奮しまくって騎手より騒いでたからな。
「それでなんですが桜花牧場枠の彼女たちの実力はいかほどのものなんでしょう? 推薦されている時点である程度の腕はあると思っていますが」
「吉騎手や新田騎手に色々教えてもらってるみたいですよ? 実践ならともかくシミュレーターでは張り合えるかと」
「それはそれは…」
「あくまでシミュレーターなのでそこらへんをジョッキーたちに伝えておいてもらえると助かりますね」
「確かに子供に負けたとなればプライドにかかわりますからね」
サラサラと資料にメモを取っていくお偉いさん。フォローは頼んだぜ。
「それではここで一度打ち合わせを終わらせて、二週間前にもう一度島を訪ねさせていただきますので最終の詰め切りをしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ、このような夢のような企画に携われて私は幸せです。本当にありがとうございます」
スッと立ち上がって右手を差し出してくるお偉いさん。笑みを浮かべながら俺はその手を握り返す。
「成功させましょう」
「ええ。必ず」
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